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X 1ark × Lion melo「Crap World」レビュー|ドリルの闘犬が見せた、予想外のメロディアスな牙

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X 1ark × Lion melo「Crap World」レビュー|ドリルの闘犬が見せた、予想外のメロディアスな牙
世界への違和感を音に変換する──「Crap World」
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「クソみたいな世界」というタイトルが、Spotifyの公式プレイリストに並んだ。 だがニュースは”選ばれたこと”ではない。X 1arkが、ドリルの武器を一度置き、歌う方向へ踏み出したことだ。 『Crap World / Even god is Enemy』は、その転換点を刻む両A面シングルになっている。


X 1ark「Crap World」はどんな曲?(一言で)

ドリルシーンから頭角を現した滋賀出身のラッパー・X 1arkが、Lion meloとのコラボでメロディアスな内省ラップに踏み込んだ転換作。「出来れば負けなんて知りたくなかった」「出来れば良い夢だけを見ていたい」——威嚇でも誇示でもなく、自分自身の弱さとの対話が核にある。2024年のソロ版を経て、2026年に再構築された両A面シングルの表題曲。


X 1arkとは何者か

X 1arkは滋賀出身のラッパー。2024年8月、HIPHOPメディア「スラムフッドスター」主催の次世代発掘オーディション「TOKYO DRILL 2」で数百名の応募者を退けて優勝した(PR TIMES)。当時17歳。「コンプレックスを武器にできるジャンルだと思った」と語り、ヘヴィでダークなドリルビートの上で自身の生い立ちをラップするスタイルで注目を集めた。

Pxrge Trxxxperとの「Dual Phantom」やEP『Evil is Justice』(TuneCore Magazine)に収録された楽曲群は、UK/シカゴドリルの系譜に連なる攻撃的なサウンドが軸。03- Performanceクルーに所属し、CLUB STAR名古屋(出典)やKITSUNE KYOTO(出典)への出演歴もある。Spotifyの月間リスナーは執筆時点で約14万人前後を推移しており(Spotify)、アンダーグラウンドからライジングの局面に差し掛かっているアーティストだ。


2024年版と2026年版の違い

見落とされがちだが、「Crap World」には2024年にリリースされたX 1arkのソロバージョンが存在する(Spotify)。今回の2026年版はLion meloを迎えたコラボ再録であり、同一タイトルの楽曲が2年越しで再構築された形になる。

この経緯を踏まえることで、X 1arkがこの楽曲に寄せる執着と、Lion meloの参加がもたらした変化の意味が見えてくる。ソロ版で一人で背負っていた楽曲の重さが、二人の声質の対比によって分散され、結果として聴きやすさとエモーショナルな深みが両立する構造に変わった。


音楽的分析:なぜ「メロディアス」と言えるのか

※本セクションのBPM・ミキシング等の技術的記述は、編集部の聴感に基づく分析です。

X 1arkの従来路線との断絶

「Eternal Blaze」「No Warning」「ADVANCE」——X 1arkの代表曲を並べれば、特徴は明瞭だ。BPM140前後のドリルビートに載せたアグレッシブなフロウ、ボーカル加工を最小限に抑えた生々しいデリバリー。だが「Crap World」2026年版では、その方程式が崩れている。

体感としては、従来よりテンポ感が落ち着き、メロディを置ける余白がある。808ベースのローエンドは健在だが、ドリル的なスライドベースよりもトラップ寄りの使い方が印象的。ハイハットは16分と3連が不規則に混在し、リスナーを安定させない設計だ。

Lion meloとは?——何が効いたか

Lion meloのオートチューンを効かせたメロディアスなフローは、X 1arkの従来スタイルとは対極にある。ドリルの定石であれば埋め尽くされる中音域にあえて余白を設けたプロダクションは、歌メロの導入に不可欠な空間を生んでいる。

X 1arkの声質が加工を抑えた「地に足のついた声」であるのに対し、Lion meloのヴォーカルはエフェクトによる浮遊感を帯びる。この共存が、タイトルの「Crap World」という虚無感を音響的に成立させている。

ミキシングにおいてボーカルの距離感が前後する箇所があるが、これが意図的な演出か制約かの判断はつきかねる。現時点では「世界との距離感の不安定さ」を表現する効果として聴くこともできるが、洗練の余地は残る。


歌詞の要点(3行まとめ)

TuneCore Japanで歌詞全文が公開されている(TuneCore)。要約すると:

  1. 自分の弱さとの対話——「出来れば負けなんて知りたくなかった」「未だに親に返せてないLove」。ドリルにおける威嚇や誇示ではなく、内省がリリックの中心を占める。
  2. 日常のリアル——「躍起になり歌詞書いてる真夜中」「冷めてる飯食ってた子供の頃」。抽象的なポーズではなく、生活の手触りがある。
  3. それでも歩く意志——「俺が売れないこの世の中じゃ 気張り胸を張り生きてくLife」。虚無の先に、投げやりではない決意が置かれている。

ドリル時代のX 1arkが「外部への攻撃」を武器にしていたとすれば、この楽曲では「自分自身との対峙」が主題。メロディアスなアプローチへの転換は、このリリックの変化と不可分だ。


2026年2月のシーン文脈と、この曲の位置づけ

2026年2月の日本の音楽シーンは、トップ層が圧倒的に強い状況が続いている。ストリーミングチャート上位は米津玄師「IRIS OUT」やMrs. GREEN APPLE「lulu.」といったメジャーアクトが支配し(オリコンBillboard JAPAN)、週間再生数1000万回超が常態化した世界だ。

一方で、Creepy Nutsは4月に自身初の北米ツアーを控えている(コーチェラ出演を含む5公演。音楽ナタリー)。日本語ラップのグローバル化が進む中、「Crap World」はそのどちらの流れにも与しない。

ただし、それは「対極」というよりも「別の層」での勝負と見るべきだろう。「New Music Friday Japan」にX 1arkとLion meloが名を連ねた事実は、Spotifyキュレーターが彼らの変化に何かを見出した示唆にはなる。


両A面の構造——「内」と「外」の補完関係

『Crap World/Even god is Enemy』の両曲はいずれも全主要ストリーミングサービスで配信されている(Spotify、Apple Music、LINE MUSIC、Amazon Music他。TuneCore Magazine)。

コンセプトの重複——世界への否定(Crap World)と神への反抗(Even god is Enemy)——は表面的には存在する。だが歌詞を精読すると、「Crap World」が**自己との対話(内)であるのに対し、「Even god is Enemy」は外部への宣戦布告(外)**という軸の違いが見える。

この内と外の二面性を両A面という形式で提示したと解釈すれば、重複ではなく補完関係だ。


おすすめの聴き方

  • イヤホン推奨。808ベースのサブベース帯域がこの曲の空気感を支えているため、スピーカーだと印象が変わる。低音が出るイヤホン/ヘッドホンで聴くのがベスト。
  • サビの聴きどころは冒頭のフック。「出来れば負けなんて知りたくなかった」から始まるメロディラインが、従来のX 1arkとの違いを最もわかりやすく示している。
  • 2024年ソロ版→2026年コラボ版の順で聴くと、Lion meloの参加がもたらした変化が体感できる。

HIPHOPCsとしての評価

強み

最大の評価点は、X 1arkが自らの強みであるドリルの攻撃性を一旦手放し、メロディアスな表現に踏み込んだ勇気にある。TOKYO DRILL 2優勝者という看板は、裏を返せばドリル以外を許さない鋳型にもなり得る。「Crap World」はその鋳型を意図的に壊す試みであり、「出来れば良い夢だけを見ていたい」「別に死にたいって訳じゃないが」といったリリックの生々しさは、ドリルのポーズでは到達できない領域に達している。

課題

約3分半という尺の中で、展開の変化が乏しい印象が残る。メロディアスに転じたからこそ、ドリル時代には不要だった「構成力」が問われる局面に来ている。フック→ヴァース→フックの繰り返しに終始し、ブリッジやブレイクダウンといった仕掛けが見当たらない。これはX 1arkの次のフェーズにおける最重要課題だ。

総括

「Crap World」は、ドリルシーンから頭角を現したX 1arkが、メロディとイントロスペクション(内省)の領域に踏み出した転換点として記録されるべき一曲。楽曲としての完成度には伸びしろがあるが、方向性そのものは正しい。

ドリルとメロディの共存は、海外ではPop SmokeやLil Durk、Central Ceeが示した道でもある。X 1arkがその日本語ラップ版をどう構築するのか。「クソみたいな世界」への回答は、次のリリースに委ねられている。


楽曲情報

  • アーティスト: X 1ark & Lion melo
  • タイトル: Crap World / Even god is Enemy(両A面シングル)
  • リリース日: 2026年2月25日
  • 配信: Spotify、Apple Music、LINE MUSIC、Amazon Music、その他主要ストリーミングサービス
  • Spotify: Crap Worldを聴く

よくある質問

X 1arkとLion meloの「Crap World」はいつリリースされた?

2026年2月25日。両A面シングル『Crap World / Even god is Enemy』の表題曲のひとつとしてリリースされた。

「Crap World」はどこで聴ける?

Spotify、Apple Music、LINE MUSIC、Amazon Musicをはじめ、主要ストリーミングサービスで配信中。もう一方の「Even god is Enemy」も全プラットフォームで聴取可能。

X 1arkは何歳?

TOKYO DRILL 2優勝時(2024年8月)は17歳と報じられている。

TOKYO DRILL 2とは?

HIPHOPメディア「スラムフッドスター」が主催した次世代ラッパー発掘オーディション。ドリルに特化した企画で、応募者は数百名に及んだ。視聴者投票とSNSの反応を数値化する民主的なジャッジが特徴。X 1arkが優勝し、賞金と1年間のMV制作無償権を獲得した。

X 1arkはどんなアーティスト?

滋賀出身。ドリルを主軸に、Pxrge Trxxxperとの「Dual Phantom」やEP『Evil is Justice』などをリリース。03- Performanceクルー所属。「Crap World」ではメロディアスな方向への転換を見せた。

2024年版と2026年版の「Crap World」は何が違う?

2024年版はX 1arkのソロ楽曲。2026年版はLion meloを迎えたコラボレーション再録で、両A面シングルの一曲として再構築されている。

Lion meloとは?

「Crap World」でX 1arkとコラボレーションしたラッパー/シンガー。オートチューンを効かせたメロディアスなフローが持ち味で、X 1arkのハードなラップスタイルとの対比が楽曲の特徴を形成している。


本記事の楽曲解釈は編集部の分析に基づくものであり、アーティストの公式見解を代表するものではありません。

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HIPHOPCs(ヒップホップシーエス)編集部は、海外/日本のヒップホップ専門のニュースチームです。速報だけでなく、データと一次情報をもとに動向を整理する「Intelligence Unit」として、週間ニュース総まとめ、チャートやトレンド分析、背景解説を定期配信しています。さらに、アーティスト/関係者への独占インタビューなど一次取材も実施。参照先は主に海外一次ソース(例:Spotify 等)で、誤情報は追記・訂正し透明性を重視して運営しています。

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