SENA『360Mountain』は、重厚なベースラインと硬質なドラムパターンが印象的なトラックである。ビートは低音域を軸にしながらも、随所に挿入されるシンセのレイヤーが立体的な空間を生み出しており、ヒップホップの伝統的なサウンドメイクを踏襲しつつも現代的なプロダクションに仕上がっているように聞こえる。タイトルの「360Mountain」が示すように、全方位から押し寄せるような音の圧力と、山のごとくそびえ立つ存在感を感じさせる一曲だ。
SENAのラップは、このビートに対して絶妙な緩急をつけたフロウで乗りこなしている。言葉の詰め方にはストリートで鍛えられたような説得力があり、一聴すると淡々としているようでいて、実は細かいリズムチェンジや韻の配置に工夫が見られる。リリックの全容は聴き込みによって徐々に浮かび上がってくるタイプだが、自身の立ち位置や覚悟を表明するような内容が含まれているように感じられ、ラッパーとしてのアイデンティティを強く打ち出した作品と捉えられる。
360Mountainは、深夜のドライブや一人で集中したいときに聴きたくなるような没入感を持っている。ニューヨークのアンダーグラウンドシーンを彷彿とさせるダークなトーンでありながら、日本語の響きが独自の質感を加えており、国内外のヒップホップファンにも訴求しうるポテンシャルを秘めている。SENAというアーティストがどのようなキャリアを歩んできたかは本トラックだけでは断定できないが、この楽曲が持つ完成度から察するに、相応の経験と美学を持ち合わせたラッパーであることは間違いないだろう。今後の動向にも注目していきたい。