3月12日、POP YOURS 2026のタイムテーブルが発表されました。全71組、初の3日間、幕張メッセ1-6ホール。オープニングDJのnasthugからヘッドライナーのLANAまで、DAY1だけで20組以上がステージに立ちます。
しかし、この記事ではタイムテーブルを並べることが目的ではありません。POP YOURSは、もはや単なるヒップホップフェスではない。いま日本語ラップの「現在地」を誰が名乗るのかを、年に一度決めてしまう場所です。
ヘッドライナーはLANA、千葉雄喜、KEIJU。Tohjiは引退前最後のSPECIAL ACT、PUNPEEは5周年に帰ってくるSPECIAL LIVE。2022年の初開催から5年で「日本語ラップの本流」にまで登りつめたPOP YOURSが、なぜそうなれたのか。その構造を、データとシーンの文脈から解体していきます。
5年間の成長曲線:数字が語る「膨張」の内側
過去4回の公式発表データを並べます。
2022年(初開催):2日間/幕張メッセ9-11ホール/全37組/動員 約16,000人/YouTube生配信 約26万視聴
2023年(2回目):2日間/同会場/全43組/動員 約30,000人/YouTube 約37万視聴
2024年(3回目):2日間/同会場/全44組/動員 約35,000人/YouTube 約56万視聴
2025年(4回目):2日間/同会場/全出演者発表前にSOLD OUT/動員 約35,000人/YouTube 約180万視聴
2年目で動員をほぼ倍増させ、3年目以降は35,000人前後で安定。これは9-11ホールの物理的キャパシティが上限に達したことを意味します。注目すべきは、2024→2025でYouTube視聴回数が56万→180万と3倍以上に跳ね上がったこと。「行きたいのにチケットが買えない層」が爆発的に膨らんでいたわけです。
2026年の1-6ホール移行は、この見えない需要への回答でしょう。9-11ホール(3ホール分)から1-6ホール(6ホール分)へ、面積はおよそ2倍。さらに3日間開催を掛け合わせれば、延べキャパシティは前年比で大幅に拡大します。ただし、6ホール全体がフロアとして使われるわけではなく、Terminal 6 STAGEのように独立ステージに充てられるホールもあるため、単純な「動員2倍×日数1.5倍」にはならない点は留意が必要です。
ヘッドライナー変遷が映す「POP YOURSの意志」
歴代ヘッドライナーの選定には、主催スペースシャワーネットワークの設計思想が透けて見えます。
2022年:PUNPEE × BAD HOP
2023年:BAD HOP × Awich
2024年:LEX × Tohji
2025年:¥ellow Bucks × JJJ
2026年:LANA × 千葉雄喜 × KEIJU
初年度〜2年目はPUNPEE、BAD HOP、Awichという「名実ともにトップ」を据えて信頼性を確立。転換点は2024年のLEX × Tohji起用です。この2人はSoundCloud世代の旗手であり、従来のヒップホップフェスのヘッドライナー像とは明らかに世代が違う。NiEWの事前分析が指摘していたように、POP YOURSはここで「人気者を集める場」から「次のヘッドライナーを自ら作る場」へとギアを変えました。
2026年のLANA起用は、その文脈の完成形です。2023年にフェス発オリジナル楽曲「Makuhari」へ参加、同年「Bad B*tch 美学」でAwich・NENEと共演。2025年には横浜アリーナ公演を成功させた。POP YOURSのステージで世に出て、POP YOURSが育てたアーティストが、POP YOURSのヘッドライナーに立つ。このサイクルを3年で完成させた事実は、他の国内ヒップホップフェスには現時点で類例がありません。HIPHOPCsが実施した512件のInstagramアンケートでも、千葉雄喜・LANA・KEIJUが「今の顔」の上位3人に入っており、運営の編集と観客の感覚が高い精度で重なっています。
POP YOURSを「別物」にしている3つの構造
1. オリジナル楽曲という「フェスでしか生まれない音楽」
POP YOURSを他のフェスと構造的に分けているのは、フェスティバル発のオリジナル楽曲戦略です。
2023年にリリースされた「Makuhari」(Bonbero、LANA、MFS、Watson)は、Spotify・Apple Musicでの再生数やSNSでの拡散規模において、その年の日本語ヒップホップシーンで最も話題を集めた楽曲のひとつになりました。「Bad B*tch 美学」(Awich、NENE、LANA、MaRI)もフェス発。2024年にはさらに「明るい部屋」(LEX & LANA)、「Champions」(Kaneee、Kohjiya、Yvng Patra)、「YW」(JJJ、BLASÉ、Bonbero)の3曲をリリースし、すべてフェス当日に初披露されています。なお、POP YOURS出演者の多くがHIPHOPCsの2025年日本語ラップ年間レポートTOP10にランクインしており、フェスのラインナップとシーンの実勢が連動していることがデータからも裏付けられます。
この戦略の核心は、「POP YOURSでしか生まれない音楽が存在する」という事実を毎年更新し続けている点にあります。フェスが「既存の曲を聴く場」ではなく「新しい音楽が生まれる現場」になる。フジロックやサマソニにも独自の価値はありますが、「フェス名義で楽曲をリリースし、それがシーンのヒットになる」というサイクルを回しているのはPOP YOURSだけです。
2026年もこの戦略は継続しています。すでにNEW COMER枠のKianna、HARKA、AOTO、Sieroによる「STARLIGHT」、そしてDaichi Yamamoto、MIKADO、NENEによる「違う」(プロデュース:KM)の2曲がリリース済み。今後もオリジナルコンテンツの追加発表が予定されています。
2. NEW COMER SHOT LIVE──「発掘」が仕組みになっている
毎年、新鋭がショートセットで登場する「NEW COMER SHOT LIVE」枠。注目すべきは、この枠の卒業生がメインアクトに昇格していくサイクルが、4年間で明確にパターン化していることです。
2022年のNEW COMER枠にいたJUMADIBAは2024年にメインステージ出演。同年のeydenも2024年にメインアクト入り。2024年のKohjiyaは「ラップスタア」での躍進も重なり、その年のオリジナル楽曲「Champions」に抜擢されました。2025年のlilbesh ramkoは2026年にメインアクトとして帰還。
この「発掘→育成→メインアクト昇格」の導線が偶然ではなく構造になっている点が重要です。2026年のNEW COMER枠にはAOTO、Siero、X 1ark(DAY1)、Rama Pantera、Sad Kid Yaz、YELLASOMA(DAY2)、11、HARKA、Kianna(DAY3)の9組がラインナップ。RAPSTAR 2025優勝のPxrge Trxxxperがすでにメインアクト入りしている事実と合わせて見ると、このフェスが日本語ラップの「入口」として機能していることがわかります。
3. YouTube無料配信が作る好循環
2025年のYouTube視聴回数180万回は、前年比3倍超。チケットが即完売する状況で無料配信を継続している判断は、短期の収益よりも「ブランドの拡張」を優先する戦略です。配信で観た層が翌年のチケット争奪戦に参入する→さらに早く完売する→配信の視聴数がまた伸びる。この好循環が、5年間の成長エンジンになっています。
POP YOURSが「全部」ではない理由
ここまでPOP YOURSの強さを解体してきましたが、一歩引いた視点も必要です。
POP YOURSのラインナップは、広義の「ポップとしてのヒップホップ」に強く傾いています。SoundCloud以降の世代、メロディアスなフロウ、フェス映えするライブパフォーマンス──この軸で選ばれたアーティストが中心です。2026年のTerminal 6 STAGEでGRADIS NICE & DJ SCRATCH NICEやCONCRETE GREENが登場するのは、その偏りへの意識的な補正とも読めます。
しかし、たとえばビートメイカー主導のインストゥルメンタルヒップホップ、地方のローカルシーンに根を張るアンダーグラウンド勢、あるいは90年代〜00年代前半の系譜を直接受け継ぐハードコア層は、POP YOURSの中心にはいません。2026年のラインナップにSEEDA、ISSUGI、C.O.S.A.、ANARCHYといった名前があるのは確かですが、フェス全体のトーンを決めているのはあくまでポップ寄りの新世代です。
これは欠点ではなく、選択です。POP YOURSは「日本語ラップの全体像」を描こうとしているのではなく、「2020年代のポップカルチャーとしてのヒップホップ」という明確なテーゼのもとにキュレーションされている。だからこそ切れ味がある。しかし、POP YOURSの評価がそのまま「日本語ラップの現在」の評価と等号で結ばれることには、注意が必要です。ここにいないアーティスト、ここにいない音楽もまた、シーンの一部です。
2025年のJJJ──フェスが背負った重さ
POP YOURS 2025を語る上で、JJJの急逝は避けて通れません。
2025年4月13日、DAY2のヘッドライナーだったJJJが35歳で急逝。運営は「偉大な功績に深く敬意を表し」、予定通りJJJをヘッドライナーとして開催することを決定しました。生前にJJJとスタッフが構想していた演出を可能な限り再現し、アルバム『MAKTUB』(2023年)の楽曲を中心に据えたステージが実現しています。
JJJは初年度2022年から出演してきたアーティストのひとりです。さらに言えば、Fla$hBackSの盟友febbもすでにこの世にいない。POP YOURSのステージは、喪失の記憶をもシーンの歴史として刻み込む場所になりました。
2023年のBAD HOP解散発表、2025年のJJJ追悼ステージ、そして2026年のTohji引退前最後の出演。POP YOURSには、日本語ラップの「始まり」だけでなく「終わり」も集まってくる。それが、このフェスを単なるエンターテインメントの枠に収まらない存在にしています。
2026年のラインナップ:見るべきポイント
Tohji──引退前最後のPOP YOURS
2025年10月のPOP YOURS OSAKAで2026年をもって音楽活動を引退すると発表したTohji。初年度から出演し、2024年にはヘッドライナーを務めた彼がDAY2のSPECIAL ACTとして出演します。POP YOURSの歴史そのものを体現する存在の、最後の幕張です。
PUNPEE──DAY3のSPECIAL LIVE
初年度ヘッドライナーが5周年に戻ってくる。この構成だけで、POP YOURSが自らの歴史を「物語」として設計していることがわかります。
STUTS Orchestra──DAY1のSPECIAL LIVE
オーケストラ編成という、通常のヒップホップフェスでは考えにくい形式。STUTSはOSAKAでもKaneeeや7を迎えた特別なパフォーマンスを披露しており、POP YOURSが「ライブの形式そのもの」を更新しようとしていることの象徴です。
Terminal 6 STAGE──パーティーカルチャーへの接続
2026年で初登場する新ステージ。幕張メッセ6番ホール内に設置され、DJプレイとパーティーカルチャーにフォーカスします。
最注目は「SEEDA × DJ ISSO × she’s rough presents CONCRETE GREEN」の復活(DAY2)。2000年代後半の日本語ラップ史における重要コンピレーションが、she’s roughを加えた新編成でPOP YOURSのステージに登場する。この文脈がわかる人にとっては、ヘッドライナーと同等かそれ以上の衝撃です。
DAY2にはさらに「Tohji Presents u-ha neo stage」も。kegønとSarenがラインナップをキュレーションするこの枠は、アーティスト自身にステージの中身を委ねる形式です。DAY1のGRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE、I♡WAKA、DAY3のAMAPINIGHT、MASATO & Minnesotah(KANDYTOWN)、YeYanと合わせ、メインステージとは異なる温度のヒップホップに触れられる場になるでしょう。
Koshy & Sonsi──最終追加が映す現在進行形
3日間合計71組の最終ラインナップを締めたのが、DAY1に追加されたKoshy & Sonsiです。千葉雄喜やWatsonのプロデュースを手がけるトッププロデューサーKoshyと、RAPSTAR 2025で脚光を浴びKoshyプロデュースの「OYJ」がバイラルヒットしているSonsiのコラボ名義。最後の一枠に、過去の格ではなく「いま動いている回路そのもの」を差し込んだ判断に、POP YOURSの編集意志が見えます。
DAY別ラインナップ全容(2026年3月13日時点・全71組確定)
3月12日にはタイムテーブルが発表され、同時にPOP YOURSオフィシャルアプリもリリースされました。各日のオープニングDJ(nasthug、eijin、uin)からヘッドライナーまでの流れが確定しています。
DAY1(4月3日・金)
ヘッドライナー:LANA / Benjazzy、Bonbero、Elle Teresa、eyden、guca owl、ISSUGI、Jinmenusagi、Koshy & Sonsi、kZm、Litty、Peterparker69、Pxrge Trxxxper、SEEDA、VaVa、WILYWNKA / SPECIAL LIVE:STUTS Orchestra / NEW COMER SHOT LIVE:AOTO、Siero、X 1ark / OPENING DJ:nasthug / Terminal 6:DJ U-LEE、GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE、I♡WAKA
DAY2(4月4日・土)
ヘッドライナー:千葉雄喜 / BIM、DADA、Daichi Yamamoto、DJ CHARI & DJ TATSUKI、Jin Dogg、JUMADIBA、KM、Kvi Baba、Manaka、Masato Hayashi、ralph、SALU、SPARTA、Worldwide Skippa、Yvng Patra、7 / SPECIAL ACT:Tohji / NEW COMER SHOT LIVE:Rama Pantera、Sad Kid Yaz、YELLASOMA / OPENING DJ:eijin / Terminal 6:MARZY、SEEDA × DJ ISSO × she’s rough presents CONCRETE GREEN、Tohji Presents u-ha neo stage
DAY3(4月5日・日)
ヘッドライナー:KEIJU / ACE COOL、ANARCHY、C.O.S.A.、G-k.i.d、Jellyyabashi、Kaneee、Kohjiya、lilbesh ramko、MIKADO、NENE、OZworld、ピーナッツくん、柊人、Tete、Watson、Yvngboi P / SPECIAL LIVE:PUNPEE / NEW COMER SHOT LIVE:11、HARKA、Kianna / OPENING DJ:uin / Terminal 6:AMAPINIGHT、MASATO & Minnesotah、YeYan
POP YOURS OSAKA──「年に一度」を超える動き
2025年10月18日、大阪城ホールで初の関西公演「POP YOURS OSAKA」が開催されました。Awich、Tohji、LEXをはじめ全15組が出演し、チケットは完売。この大阪公演のステージ上で2026年の幕張開催が発表されるという演出は、POP YOURSが「年1回の幕張フェス」から「通年でシーンを動かすプラットフォーム」へと変わりつつあることを示していました。
幕張での本公演+OSAKAというサテライト公演の二軸体制は、関西圏のファンベースを直接取り込むだけでなく、POP YOURSブランドの「フェス以外の接点」を増やす戦略です。単なる地方巡業ではありません。
チケット情報
一般発売は2月21日からスタート済み。限定Tシャツ付きチケット(全券種)および3日通しGOLDチケットはSOLD OUT。
1日券/一般:¥14,500(税込)
1日券/ゴールドチケット:¥25,000(税込)
2日通し券/一般:¥27,000(税込)
3日通し券/一般:¥39,500(税込)
購入はローソンチケットから。過去2年連続で全出演者発表前にSOLD OUTしている前例を踏まえれば、迷っている時間はあまりありません。
POP YOURS 2026 よくある質問
チケットはまだ買える?
一般発売中(ローソンチケット)。限定Tシャツ付き(全券種)と3日通しGOLDはSOLD OUT。1日券一般¥14,500、ゴールド¥25,000、2日通し¥27,000、3日通し¥39,500が残っています。
タイムテーブルは?
3月12日に全3日分が公開済み。同時にオフィシャルアプリもリリースされています。各日オープニングDJ(nasthug / eijin / uin)からヘッドライナーまでの全行程が確定しています。
オリジナル楽曲は今年もある?
すでに「STARLIGHT」(Kianna、HARKA、AOTO、Siero)と「違う」(Daichi Yamamoto、MIKADO、NENE)の2曲がリリース済み。今後も追加発表が予定されています。
まとめ:POP YOURSは人気を映すフェスではない
5年間を通して見えてくるのは、POP YOURSが「今の人気者を呼ぶフェス」ではなく、「次の顔を決めるフェス」として設計されているという事実です。
NEW COMER枠からメインアクトへの昇格導線。フェス発のオリジナル楽曲がシーンのヒットになるサイクル。そこで育ったアーティストがヘッドライナーに立つ物語。BAD HOPの解散、JJJの死、Tohjiの引退という「終わり」すら、自らの歴史の一部として刻み込んでいく構造。
2026年の規模がその確信を補強します。2日間→3日間、3ホール→6ホール、44組→71組、メインステージのみ→Terminal 6 STAGEの新設。量の拡大だけではなく、DJカルチャーやアーティスト・キュレーション枠の追加によって「ステージに立つ音楽の幅」そのものを広げている。日本語ラップの現在地を定義すると言い切れるのは、その器がシーン全体の縮図に近づいているからです。
もちろん、POP YOURSがカバーしきれない音楽は山ほどあります。このフェスが日本語ラップの「全部」だと思ったら、それは違う。しかし、「2020年代のポップカルチャーとしてのヒップホップ」という明確なテーゼのもとで、誰がステージに立ち、何が生まれ、何が終わるのかを年に一度定義してしまう──その機能において、POP YOURSに並ぶ存在は今の日本にはありません。
POP YOURSは人気を映すフェスではない。日本語ラップの「今」を、毎年ひとつの物語として固定してしまうフェスです。
POP YOURS 2026
日程:2026年4月3日(金)・4月4日(土)・4月5日(日)
時間:開場9:30 / 開演11:00
会場:幕張メッセ 国際展示場 展示ホール1-6
公式サイト:popyours.jp
主催:株式会社スペースシャワーネットワーク
制作:SMASH / HOT STUFF PROMOTION / WWW
