横浜出身のラッパー・2ikKen(ニッケン)が3月24日、シングル「YARU [Moment City Remix] (feat. Huncho Joe, Jeff Kiddy & MAHO)」をリリースした。ビートメイカー・HANEDAがプロデュースしたGloサウンドの上に、東京〜横浜を拠点とするヒップホップクルー・Moment Cityの3MCが合流した本作は、2024年のオリジナル版から数えてRemix第4弾にあたる。
ここで注目すべきは、1曲のRemixとしての出来だけではない。「YARU」というタイトルが掲げる「口で言うよりやることやる」という宣言が、Remix連作を重ねるたびに地理的に拡張されている点だ。そして今回、アーティスト本人から提供されたリリックを読むと、その拡張の中身——各MCが「やる」をどう自分の言葉に翻訳しているか——がはっきり見えてくる。
Remix連作が描く”行動の地図”
「YARU」のRemix系譜を整理すると、その戦略性が浮かび上がる。第2弾の「Y.T.T Remix」では横浜の盟友クルーY.T.Tからyoungelleboy、Bu$t K-MAN、TiDETRUE、s_winが参加。第3弾の「NGT Remix」では新潟からDr.KID、D.D、Hiwl、LOG heartsを招集した。そして今回の第4弾では、新宿育ちのHuncho Joe、練馬区出身でラップスタア2024のサイファー審査にも進出したJeff Kiddy、横浜出身で中国語をルーツに持つfemale rapperのMAHOからなるMoment City(モマンシティ)が合流している。
横浜→横浜(Y.T.T)→新潟(NGT)→東京+横浜(Moment City)。Remixのたびに共闘する地域が広がっていくこの構造は、単なる客演交換ではない。2ikKenが掲げる「やる」というスタンスを、自分一人の覚悟ではなく同じ意志を持つ仲間のネットワークとして可視化するプロジェクトとして読める。HIPHOPCs Intelligence Seriesで分析した通り、日本語ラップ市場はアンダーグラウンドからミドル層への流動性がシーンの持続可能性を支えている。2ikKenのRemix連作は、まさにその流動性を自ら設計しようとする試みだ。
リリック分析──3人のMCが翻訳する「やる」
フックで2ikKenは「俺らはYARU」「俺らが奪う」と宣言する。ここでの「やる」は個人の決意ではなく「俺ら」という複数形で発せられている点が重要だ。Remix連作の思想がフック一行に凝縮されている。そして3人のMCは、それぞれまったく異なる角度からこの「やる」を自分の文脈に落とし込んでいる。
Huncho Joe──日常の摩耗から絞り出す「やる」
Huncho Joeのバースで最も印象的なのは、華やかなフレックスではなく、生活の中の摩耗を描いている点だ。「飲みの連絡 遠のく支度/決まって飛び出すお前帰宅」——仲間との付き合いと音楽制作の間で引き裂かれる日常が、飾らない言葉で綴られている。そこから「喜楽亭のカツカレーwow いただく」と、突然具体的な固有名詞が飛び出す。これはストリートの匂いを嗅がせるためのディテールであると同時に、「大口叩く前にまず飯を食って生きている」というリアリズムの表明でもある。Huncho Joeにとっての「やる」は、気合いで突破するのではなく、日常のタスクに押し潰されそうになりながらも「卓収めたpicみてなんかやれそう」と自分を鼓舞し続ける、泥臭い持久戦だ。
Jeff Kiddy──最短距離の宣言
Jeff Kiddyのアプローチは対照的にストレートだ。「まずやることやれ上げろよ倍」——冒頭から迷いがない。「喜怒哀楽顔すぐ出るタイプ」と自分の弱さを認めた上で、「この声が俺の武器ならねぇよお釈迦」と、声そのものへの絶対的な自信を見せる。そして「見とけ俺成功するまでのドラマ」で締める。ラップスタア2024のサイファー審査まで進出した経歴が裏付けになっているからこそ、この直球が空振りに聞こえない。Jeff Kiddyの「やる」は、過程を見せること自体がコンテンツになるという確信だ。
MAHO──日中二刀流という固有の「やる」
MAHOのバースは、この曲の中で最もユニークな座標軸を持っている。冒頭の「Japan to china乗るHANEDA」は、ビートメイカーHANEDAの名前と羽田空港を掛けた言葉遊びであると同時に、彼女自身の日中二重ルーツを宣言するラインだ。「Asianかますfemale/二刀流私style/日中ラッパー勘違いすんなよ」——ここで明確に、自分のアイデンティティがラップの武器であることを表明している。中国語の「攀登(pāndēng)」を織り込みながら「万里の長城」を登ると言い、「パスポート忘れちゃう問題児/けどやる時やるまじYDK」で着地する。MAHOの「やる」は、日本語ラップシーンにおいてまだ少数派であるアジア間のクロスカルチャーを体現すること自体が行動証明になる、という宣言だ。
Moment Cityという”異なる出自の結節点”
こうしてリリックを並べてみると、3人のバースが示す「やる」の中身はそれぞれ異なっている。日常の持久戦(Huncho Joe)、声による直球勝負(Jeff Kiddy)、クロスカルチャーの体現(MAHO)。育った街も文化的背景も違うメンバーが、「やる」という一語を共通言語にしながら、その翻訳の仕方は三者三様だ。この多声的な構造が、Moment Cityというクルーの面白さであり、同時に2ikKenがこのクルーを客演に選んだ理由を物語っている。
2ikKen自身も、かつてビートメイカーkiz vil.との二人三脚で活動を本格化させ、2020年のデビュー作『2iGHT CAPSULE』はノンプロモーションながら各種プレイリスト入りを果たした経歴を持つ。SKY-HI(日高光啓)がJ-WAVE「SONAR MUSIC」で「2021年に最も注目する新人」として2ikKenを単独指名したエピソードは、当時すでに彼のポテンシャルが業界の目に留まっていたことを示している。その後2023年に1stアルバム『Devil Son』をリリースし、現在は渋谷HARLEMでオーガナイズイベント「F2X」を主催するなど、ライブの現場でも着実に足場を固めてきた。
Gloビートという選択
HANEDAがプロデュースした本作のビートは、シカゴ発祥のGloサウンドを下敷きにしている。Chief Keefが切り拓いたこのサウンドは、攻撃的なシンセとハードなキック、そしてメロディックなフックを両立させる特性を持つ。「口で言うよりやることやる」という2ikKenのメッセージと、有言実行を体現するかのような前のめりなビートとの相性は良い。MAHOが「このトラックは半端ねぇな」とバース冒頭で言い切っているのも、ビートへの信頼の裏返しだろう。ただし、Gloサウンドが日本のリスナーにどこまで届くかは、今後の数字が示すことになる。
プレスリリースの向こう側
率直に言えば、2ikKenはまだ名前が広く知られたアーティストではない。2025年の日本語ラップ年間レポートに名前が上がるようなポジションにはまだいない。しかし、デビュー時にSKY-HIの単独指名を受けた実績、Remix連作を通じて着実にネットワークを拡張している戦略性、そして横浜〜東京のアンダーグラウンドシーンにおけるオーガナイザーとしての活動は、単なる”期待の新人”という括りには収まらない厚みがある。
「YARU」Remix連作は、1曲のヒットに賭けるのではなく、同じ意志を持つ仲間との連帯を重ねることで自分の名前を浸透させていくという、インディペンデントな戦略の教科書的な実践だ。そしてリリックが示す通り、集まったMCたちは「やる」を復唱しているのではなく、それぞれの背景で翻訳している。だからこそこの連作には、ポッセカットにありがちな”数合わせ”の匂いがしない。次にどの地域のクルーが合流するかを含め、このシリーズの行方は追う価値がある。
楽曲情報
2ikKen「YARU [Moment City Remix] (feat. Huncho Joe, Jeff Kiddy & MAHO)」
配信日:2026年3月24日
プロデューサー:HANEDA
客演:Moment City(Huncho Joe / Jeff Kiddy / MAHO)
配信リンク:各種ストリーミングサービス
2ikKen プロフィール
横浜出身、2000年生まれ。15歳でHIPHOPに出会い、2019年末にビートメイカーkiz vil.と制作を開始。2020年にデビューシングル『2iGHT CAPSULE』をリリースし、SKY-HIに「2021年に最も注目する新人」として単独指名される。2023年に1stアルバム『Devil Son』を発表。相方のDJ KENNYとのイベント「NEW EDITION」、2025年からは渋谷HARLEMで「F2X」を主催。
Moment City プロフィール
東京・横浜を拠点に活動する3人組ヒップホップクルー。新宿育ちのHuncho Joe、練馬区出身のJeff Kiddy(ラップスタア2024サイファー審査進出)、横浜出身のMAHOで構成。それぞれ異なるバックグラウンドとフロウを持ち、ジャンルに囚われないスタイルで活動している。
2ikKen:@2ikken
Moment City:@momentcity_official
Huncho Joe:@hunchojoe_mmc
Jeff Kiddy:@jeffkiddy_mmc
MAHO:@maho_mmc
