via @realcoleworld instagram
J. ColeがApple MusicのNadeska Alexisとのインタビューで、DrakeとKendrick Lamarの双方への思い、そして2024年の”7 Minute Drill”謝罪の真意を語った。場所は、彼が幼少期を過ごしたノースカロライナ州フェイエットビルの家──『2014 Forest Hills Drive』の原点である。
今回明かされた最大の新事実は、あのDreamville Fest 2024での公開謝罪が、セットリスト直前──本番の約1時間前に「腹へ落ちてきた」ものだったということだ。事前に準備された演出ではなく、ステージに立つ直前の決断だった。
勝者の壇上でも華やかなスタジオでもなく、自分の原点に戻ってきた。新作『The Fall-Off』について、キャリアについて、そしてあのビーフについて。ここで口を開いたこと自体が、すでにJ. Coleらしい。
DrakeもKendrickも、「どちらも大切だ」と言った
今回の発言で最も大きかったのは、この一点だ。J. Coleは、DrakeとKendrick Lamarの両方にはっきりと敬意と愛情を示した。
インタビューの中で彼は、片方を守るためにもう片方を世界中が叩く状況を見るのがつらかったと率直に明かしている。評論家として語っているのではない。仲間を見る目で語っている。そこが大きい。
DrakeがKendrickのスーパーボウルショーを法的に制限しようとしたとされる動きや、Kendrickがスーパーボウルのパフォーマンスに込めたメッセージが話題になるなど、2024〜2025年にかけて両者の対立は多方面に波及した。その渦中で「どちらも大切だ」と公言することの重さは、背景を知るほど増す。
謝罪は「本番の一時間前」に腹へ落ちてきた
経緯を整理する。2024年4月、J. Coleは「7 Minute Drill」でKendrick Lamarに応戦した。しかしわずか2日後、Dreamville Fest 2024(2024年4月6〜7日)のステージ上でその決断を公に謝罪し、楽曲をストリーミングから削除している。
ファンの反応は大きく割れた。ラッパーとして失点だと見る声もあれば、誠実さの表れだと受け止める声もあった。50 Centが「ドレイクは何も失っていない」とDrake側を擁護したように、業界内でも立場は分かれていた。
そして今回のインタビューで、あの謝罪の内幕が初めて本人の口から語られた。J. Coleによれば、謝罪は事前に計画されたものではなかった。本番の約1時間前に「腹へ落ちてきた」(本人の表現)。そこへ至るまでは相当苦しかったが、謝るという考えにたどり着いた瞬間、身体がふっと軽くなり、気持ちが持ち上がった。ようやく”自分に戻れた”感覚があったという。
つまり、あの場面は演出でもパフォーマンスでもなく、ステージ直前に訪れた本人の内的決断だった──これが今回のインタビューで判明した最も重要な事実である。
問題は曲の出来ではなく「自分がどんな人間になるか」だった
J. Coleは謝罪を「正解だった」とだけ語ってはいない。そこが重要だ。
彼はインタビューの中で、愛情を持っている相手に対して分断やネガティブな物語に燃料を投下してしまった──という言葉で自身の行動を振り返っている。つまり彼にとって問題だったのは、ディストラックの出来不出来ではなく、その行為によって自分がどんな人間になってしまうか、だった。
この姿勢は、『The Fall-Off』全24曲に通底するテーマと完全に一致する。Cole自身が同作のBirthday Blizzard ’26 EPで「謝罪がトップ3から俺を叩き落とした」と吐き捨てている通り、代償は理解している。それでも撤回しない。
ラップバトルの文脈では、こうした発想はしばしば”甘い”と切り捨てられる。しかしJ. Coleは、おそらくそこを恐れていない。筆者の見立てでは、彼は勝ち方よりも、勝負のあとに鏡を見たときの自分の顔を気にするタイプだ。
「自分はひどく惨めだった」
J. Coleはインタビューの中で、当時の自分の状態をこう表現している。あの時、自分ははっきりしていなかった。混乱の中でこの方向へ進んでしまい、結果として自分はひどく惨めな気持ちになった、と。
この言葉からは、プライドを守るための言い換えよりも、むしろ”失敗の手触り”がにじんでいる。ラップ史の中で見れば、決して派手な場面ではない。しかし人の記憶に長く残るのは、案外こういう部分だったりする。
なお、KendrickとDrakeの側から、このJ. Coleの発言への反応は現時点では表に出ていない。インタビューでも楽曲でも明確な返答は確認されておらず、この話はまだ閉じていない。
ビーフが終わったあとに残るもの
J. Coleが今回語ったのは、どちらかを選んだという話ではない。むしろ逆だ。
どちらも大切に思っていて、どちらかを守るためにどちらかを壊す物語へ、自分まで飲み込まれることを拒んだ。それがラッパーとして”弱さ”に見える人もいるだろう。しかし見方を変えれば、かなり強い選択でもある。群衆の熱より、自分の良心を信じたということだからだ。『The Fall-Off』が初週28万枚で全米1位を記録し、アナログ盤だけで8万枚を売った事実は、その選択をリスナーが受け入れた証拠とも言える。
繰り返しになるが、今回のインタビューで判明した核心はこれだ──J. Coleの”7 Minute Drill”謝罪は、事前に計画されたものではなく、本番約1時間前に訪れた内的決断だった。あの場にいたファンが見たのは、演出ではなく、リアルタイムの葛藤の結末である。
誰が一番勝ったか。もちろん、それも残る。しかし同時に、あの大騒ぎのあとで誰がどんな人間だったか。それもまた、時間が経つほど重みを持ってくる。ビーフが終わったあとに残るものは、勝敗表だけではない。
出典:Apple Music「The Fall-Off Interview」(Nadeska Alexis)。本記事はインタビュー内容をもとに日本語読者向けに再構成・編集したものである。J. Coleの発言はインタビュー映像に基づいているが、日本語化にあたりニュアンスが異なる可能性がある。筆者の解釈が含まれる箇所は「筆者の見立てでは」等の表現で区別している。
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ライター
Ito Kotaro(HIPHOPCs)
HIPHOPCs編集部。USヒップホップの構造分析と速報を担当。『The Fall-Off』レビュー(★4.58/5点)では全24曲を個別解説し、「謝罪がトップ3から俺を叩き落とした」というColeのリリックから引退宣言の真意を読み解いた。J. ColeとKanye Westの争いの時系列整理記事も執筆。
記事内容は2026年3月時点の情報に基づく。
