最強ソングならぬ最狂ソング
ラッパー rirugiliyangugiliが率いるヒップホップコレクティブCNG Squadが、人気アイドルグループCANDY TUNEの『倍倍FIGHT!』をサンプリングした新曲『倍倍倍倍』を発表した。アイドルソングとアンダーグラウンドHIPHOPの異色コラボが、いまSNSで波紋を広げている。
CANDY TUNEとは
CANDY TUNEは、KAWAII LAB.(カワイイラボ)から誕生したアイドルグループ。キャッチーな楽曲と明るいパフォーマンスで若い世代を中心に支持を集めている。今回サンプリング元となった『倍倍FIGHT!』は、「倍の倍のFIGHT」というフレーズに象徴されるように、前向きに頑張る自分を応援するポジティブなアイドルソングだ。
CNG Squadとは
CNG Squadは、rirugiliyangugiliを中心に結成されたヒップホップコレクティブ。個性的な若手ラッパーが集まり、型にはまらない音楽制作を行っている。今回の楽曲には、rirugiliyangugili、wood pure luvheart、Neo Iceyyy、Nasty Carcass、倍沢 直樹の5人が参加した。
アイドルソングをサンプリングするという挑戦
ヒップホップにおけるサンプリングは、既存の楽曲を素材として取り込み、新たな文脈を与える表現技法だ。ソウルやファンクの名曲をサンプリングするのはHIPHOP文化の伝統だが、日本のアイドルソングをサンプリングするという選択は一線を画している。
ポジティブで健全な応援ソングを、アンダーグラウンドの狂気的なリリックで塗り替える。この「落差」そのものが表現になっているという点で、今回のCNG Squadの試みは単なるパロディを超えた面白さがある。
真逆の歌詞が織りなす魅力
冒頭はCANDY TUNEと同じ「倍の倍のFIGHT 倍倍FIGHT by CANDY TUNE(倍の倍のFIGHT 倍倍FIGHT by CANDY TUNE)」から始まる。原曲を知っているリスナーなら、この時点で「まさかこの曲を…?」という衝撃があるだろう。そしてその後は彼ららしい、狂気的なリリックとメロディへと一気に切り替わる。
「倍」の意味が全く違う
この楽曲の核心は、「倍」という同じ言葉が全く別の意味で使われている点にある。
rirugiliyangugiliのHookでは「お金をする倍 太った体に入れる黴 口の中のキャンディやばい あれもこれも好きなバイ」と、お金、不健康、欲望が「倍」「黴」「バイ」という音で連鎖する。CANDY TUNEの「倍」が努力を倍にするという意味だったのに対し、ここでは欲望や退廃が倍増していく。
wood pure luvheartのverseでは「気づいたらバイ お金稼いで行きたいなタイ」と、刹那的な欲望と逃避願望が歌われている。原曲の「前向きに頑張ろう」というメッセージとは真逆の、刹那的で享楽的な世界観だ。
つまり、原曲の『倍倍FIGHT!』が「夢に向かって倍頑張ろう」なら、CNG Squadの『倍倍倍倍』は「欲望も退廃も倍々で膨らんでいく」。同じ音を使いながら、意味を完全に反転させている。このリリックの構造自体が、ヒップホップにおけるサンプリングの醍醐味を体現している。
倍沢直樹の正体は?
曲だけでなく、参加アーティストにも注目したい。今回登場した倍沢 直樹は、MV内でモザイクがかけられている。
rirugiliyangugiliの投稿によると「倍沢 直樹は指名手配されてるからモザイク」とのこと。名前は某ドラマのパロディであることは明白だが、一体誰なのか。もしかすると今後、彼の正体が明るみになっていく展開があるかもしれない。こうしたミステリー要素を仕込むあたりにも、CNG Squadの遊び心とセルフプロデュース力が感じられる。
楽曲そのもののクオリティに加え、こうした仕掛けやキャラクター作りも含めて、CNG Squadの今後の動きに注目していきたい。
HIPHOPCs編集部の視点
正直に言えば、初見では「アイドルの曲をサンプリングしたネタ曲か」と構えた。しかし聴き込むほどに、これは計算された構成だと感じる。
まず、サンプリング元の選定が巧い。CANDY TUNEの『倍倍FIGHT!』は、アイドルソングとして十分に認知度がある楽曲だ。つまり、原曲を知っているリスナーが多いほど「落差」のインパクトが大きくなる。ヒップホップのサンプリングにおいて、元ネタの認知度は武器になる。その点で、CNG Squadの選球眼は正しい。
そしてリリックの構造。「倍」という音を軸に、ポジティブな意味を完全に裏返してみせる手法は、単なる言葉遊びではなくHIPHOPにおけるフリップ(反転)の伝統に根ざしている。ビートを借りてきて上に乗せるだけでなく、原曲のメッセージそのものを鏡像にしてみせた。この点に関してはリリシストとしてのセンスを認めるべきだろう。
一方で課題もある。現状ではCNG Squadの情報がSNS上にも限られており、過去のリリースやライブ活動の実績が見えにくい。倍沢直樹のミステリー要素は話題性としては有効だが、継続的にリスナーを惹きつけるには、楽曲のリリースペースとクオリティの維持が不可欠だ。今回の一発がフロック(まぐれ)なのか、シーンに食い込んでいく第一歩なのか。それは次のリリースで明らかになるだろう。HIPHOPCsとしては、彼らの動きを引き続き追っていく。
