日曜日, 12月 21, 2025

Wiz Khalifa ルーマニア禁錮9カ月判決──日本の舐達麻・¥ellow Bucksから読む「ヒップホップと大麻×法」

ホーム » HIPHOP NEWS » Wiz Khalifa ルーマニア禁錮9カ月判決──日本の舐達麻・¥ellow Bucksから読む「ヒップホップと大麻×法」

via @wizkhalifa insta

Text by Ito Kotaro|2025年12月18日

⚠️ 本記事について
本記事は、海外および国内メディアの報道に基づき事実関係を整理したものであり、法的な解釈や助言を目的としたものではない。薬物の使用を推奨・容認する意図も一切ない。個人に関する記述は「報道によれば」等の表現を用い、断定を避けている。

この記事の要点

  • Wiz Khalifaはルーマニアで大麻所持を理由に禁錮9カ月判決を受けたと報じられている。
  • ヒップホップにおける大麻表象は、法制度の前では免罪符にならない。
  • 日本でも舐達麻、¥ellow Bucks、RYO the SKYWALKERなど、大麻取締法違反容疑での逮捕報道が複数存在する。
  • 2024年の法改正で、日本では「使用罪」が新設され、大麻に関する規制が一段と厳格化された。
  • 法的トラブルは作品評価とは独立して、フェス出演・企業案件・露出に直接影響し、キャリア全体を左右しうる。

Wiz Khalifaの逮捕から浮かび上がる現実

Wiz Khalifaの逮捕は、単なる海外セレブのトラブルではない。それは 「大麻がカルチャーに深く根差す音楽ジャンルであっても、法制度の前では一切の例外が存在しない」 という現実を、極めて分かりやすい形で突きつけた出来事である。

アメリカでは“weed culture”の象徴的存在として語られてきたWiz Khalifaが、ルーマニアで大麻所持を理由に禁錮9カ月という判決を受けたと報じられた。この事実は、ヒップホップが持つ表現の自由やカルチャー的文脈が、国境を越えた瞬間に無効化され得ることを示している。

ルーマニアで何が起きたのか

報道によれば、Wiz Khalifa(本名:Cameron Jibril Thomaz、1987年生)は2024年7月、ルーマニア・コスティネシュティで開催された音楽フェス「Beach, Please! Festival」に出演していた。その際、ステージ上で大麻を使用したとされる行為および乾燥大麻約18グラムの所持が問題視され、当局により身柄を拘束されたとされる。

事件の時系列

日付出来事
2024年7月「Beach, Please! Festival」に出演。大麻所持が発覚し身柄拘束と報じられる。
2024年(下級審)罰金約700ドル相当の判決。
2025年12月検察側が控訴し、コンスタンツァ控訴裁判所が禁錮9カ月の判決を言い渡したと報じられる。
同上判決は「最終(final)」とされ、通常の手続き上はこれ以上の上訴が認められない見通しと伝えられている。

本人はSNS上でルーマニア国民に対して謝罪し、「敬意を欠く意図はなかった」と説明したとされる。しかし、ルーマニアでは大麻の所持・使用に対する法規制が厳しく、個人使用であっても禁錮刑が科される可能性がある。カルチャー的背景は、量刑判断の前ではほとんど考慮されなかったと見るべき状況である。

出典:Associated Press、People ほか

日本のヒップホップでも起きてきた「大麻×法」の現実

この構図は、決して海外だけの話ではない。日本のヒップホップ/レゲエシーンにおいても、大麻取締法違反をめぐる逮捕・報道が、アーティスト本人のみならず、イベント運営・スポンサー・シーン全体に波紋を広げてきた経緯がある。

舐達麻(舐達磨)

代表的な事例が、舐達麻である。報道によれば、メンバーのBADSAIKUSHおよびG-PLANTSが乾燥大麻の所持などを理由に現行犯逮捕されたとされる。さらに2021年にも、舐達麻のメンバー2人を含む複数人が大麻取締法違反容疑で逮捕されたと報じられている。

ここで重要なのは、「リリックやビジュアルとしての表現」と、「実際の所持・使用」という法的事実が、現実社会では切り離されずに評価されるという点である。世間、スポンサー、会場、行政が判断材料とするのは“作品世界”ではなく、“法的事実”である。ニュースにおいては、そこが最優先される。

¥ellow Bucks

同様に、¥ellow Bucksも乾燥大麻所持の疑いで逮捕されたと報じられた。この報道を受け、国内大型フェスへの出演がキャンセルされた経緯も伝えられており、法的トラブルが「音源の評価」とは完全に別軸で、ブッキング・露出・流通に直接影響する構造が明確になった。

RYO the SKYWALKER

レゲエ/ヒップホップ文脈では、RYO the SKYWALKERも大麻取締法違反の疑いで逮捕と報じられている。ジャンルは異なっても、「著名人であること」「ステージ上で象徴的存在であること」が、世間的な注目度と法的責任を同時に増幅させる点は共通している。

2024年の法改正:日本で「使用罪」が新設された

日本の大麻規制は、2024年施行の法改正でさらに厳格化された。従来、日本の大麻取締法には「使用罪」がなく、所持や栽培は罰せられても、使用そのものは処罰対象外であったと説明されることが多かった。

しかし、2024年の改正で「使用罪」が新設され、大麻を「使ったこと」自体が処罰対象となり得る枠組みへと変わった。これにより、単に「持っていないから大丈夫」という発想は通用しなくなっている。

改正後の罰則(概要)

行為罰則(上限)
所持5年以下の懲役
使用(2024年新設)7年以下の懲役
栽培7年以下の懲役
輸出入7年以下の懲役

海外で大麻が合法であっても、日本人にとっては別の次元の問題である。特に、海外フェスやレコーディングで渡航するアーティストにとって、帰国後にどのような扱いになり得るかは個別の事案や捜査当局の判断に左右される領域であり、安易な一般化はできない。だからこそ、最新の法制度を理解したうえで、自身の行動を慎重に設計する必要がある。

出典:厚生労働省資料 ほか

国ごとに異なる大麻規制:比較で見える「ズレ」

Wiz Khalifaのルーマニア禁錮9カ月判決、日本のラッパーたちの逮捕報道、そして日本の「使用罪」新設。これらを一本の線で見ると、共通する構図が浮かび上がる。それは、 ドラッグ表象が強い音楽文化ほど、法域をまたいだ瞬間にリスクが最大化する という現実である。

国・地域別の大麻規制(ざっくり比較)

国・地域規制状況所持・使用の罰則(概要)
日本 違法(厳格) 所持:5年以下の懲役/使用:7年以下の懲役(2024年新設)など。
米国 州ごとに異なる カリフォルニア等では一定条件で合法だが、連邦法では依然として違法とされる。
ルーマニア 違法 罰金から禁錮刑まで幅があり、個人使用でも刑事罰の対象になり得る。
オランダ 条件付き容認 コーヒーショップでの少量所持は黙認される一方、大量の取引や輸出入は厳格に規制される。
タイ 部分的非犯罪化 2022年に非犯罪化されたが、医療・個人使用を中心とする枠組みであり、細かな規制は頻繁に変化している。

Wiz Khalifaは、米国(特にカリフォルニア州など)では比較的寛容な大麻政策のもとで活動してきたアーティストである。しかし、ルーマニアでは同じ行為が刑事罰の対象となった。海外で活動するアーティストにとって、滞在国の法律を事前に確認することは、もはやマネージャー任せにできないレベルの必須事項になりつつある。

結論:表現の自由と法的責任は別の話である

この一連の出来事から得られる教訓は明確である。

  1. 音楽カルチャーと法律は別の領域である。
    リリックやMVでの表現と、実際の所持・使用は、法的には切り離して評価されない。いかに作品として評価されていても、法令違反があれば、その事実が優先される。
  2. 国境を越えると法律も変わる。
    米国で合法でも、他国では犯罪になり得る。日本では2024年の法改正で「使用罪」が新設され、国内のリスクはむしろ高まっている。
  3. 法的トラブルは作品評価とは独立して影響する。
    フェス出演、スポンサー契約、メディア露出、配信プラットフォームでの取り扱いなど、キャリア全体に波及する可能性がある。
  4. アーティストの法令遵守(コンプライアンス)は、もはやキャリア戦略の一部である。
    海外フェス出演時には、滞在国の法律や自国法の適用範囲を事前に確認し、リスクを織り込んだ行動設計が必要になる。

カルチャーとしての許容と、社会の法的枠組みは、別のレイヤーで動いている。その現実を直視することが、次世代アーティストが国際的に活動するうえでの第一歩である。

出典・参考資料

  • Wiz Khalifaのルーマニアでの判決に関する報道:
    Associated Press / People などの海外ニュースメディア(実際に参照した記事のURLを記載)
  • 日本のアーティストに関する逮捕報道:
    ORICON NEWS、音楽ナタリーほか(舐達麻、¥ellow Bucks、RYO the SKYWALKERに関する各記事のURL)
  • 日本の大麻取締法改正に関する情報:
    厚生労働省「大麻取締法の改正について」等の公表資料(該当ページのURL)

※本記事は上記の公表資料・報道に基づき、HIPHOPCs編集部がカルチャー的背景を補足・整理したものである。

コメントを残す

Latest

ARTICLES