AK-69が新曲「LOYALTY」を配信した。アーティスト活動30周年、Def Jam契約から10年。ベストアルバム「BEST OF AK-69 ‘Yellow Gold’」を1月14日に出したばかりの彼が、次に選んだカードは「忠誠」だった。結論から言う。この曲はAK-69というブランドの維持管理であり、2026年の日本語ラップに対する提案ではない。
サウンド:完成されたルーティン
808のキックにシンセベースのサブバス、16分で刻むハイハット。AK-69のボーカルはセンターに座り、軽いディストーションとディレイで処理されている。ミックスの分離感は良好で、プロダクションとしての完成度は申し分ない。だが問題はそこじゃない。このサウンドデザインは2010年代中盤のトラップ・フォーマットをそのまま踏襲したもので、2026年に聴くべき理由が薄い。YZERRやC.O.S.A.との共演でも彼のビート選びの傾向は変わらず、ここに来てそれが「安定」ではなく「定型」に聞こえ始めている。
30年の重みと軽さ
AK-69のキャリアを振り返ると、この男のスケール感は日本語ラップ史でも異質だ。愛知県小牧市のクラブで年間180本のライブをこなした時代から、武道館ワンマン5回、横浜アリーナ、名古屋城での配信ライブ、そしてNetflixの恋愛リアリティ番組『ラヴ上等』のMCまで。2016年にDef Jam Recordings日本再始動後の第一号アーティストとして契約を果たし、プロ野球選手の登場曲使用率No.1を3度(2014年・2015年・2017年)獲得した実績は、ヒップホップの枠を超えた数字だ。
だからこそ「LOYALTY」の保守性が目立つ。忠誠心や仲間への思いを軸にしたメッセージは、まさにAK-69の十八番であり、ファンベースが求めるものそのものだ。「諦めない闘志」というテーマで井岡一翔や鈴木誠也といったトップアスリートの心を掴んできた男の言葉に、嘘はないだろう。ただ、2026年の日本語ラップが多層的で実験的な方向に進む中、このストレートさがノスタルジアとして消費されるリスクはある。
「変わらない」は戦略か、それとも限界か
正直に書く。HIPHOPCsとしてこの曲を聴いて最初に浮かんだのは、JAY-Zが「4:44」で見せた転換との対比だった。JAY-Zは自分のフォーミュラを壊してでも内省と変化を選んだ。AK-69はそうしない。彼はFlying B Entertainmentの代表であり、BAGARCHのプロデューサーであり、複数の事業を回す経営者でもある。その立場で音楽的リスクを取る必然性がないのは理解できる。だが「LOYALTY」を聴いてシーンの空気が動くかと言えば、正直そうは思わない。
興味深いのは、2025年のYZERRとの「START IT AGAIN REMIX」では異なるケミストリーを見せていた点だ。客演を迎えた時のAK-69は、相手のエネルギーに触発されてフロウに変化が出る。ソロに戻ると元のフォーマットに収まる。この差が、彼の音楽的なポテンシャルと、セルフプロデュース作品のギャップを物語っている。
HIPHOPCsの結論
「LOYALTY」はAK-69のファンにとっては安心して聴ける一曲であり、新規リスナーを引き込む曲ではない。30年間走り続けてきた男が「自分のスタイルに忠実であること」そのものを曲にした。それは確かに「LOYALTY」だ。ただ、忠誠の対象が過去の自分になった時、それは美徳ではなく枷になる。6月9日の日本武道館公演を控えた今、この先のAK-69がどこに向かうのか。そこにこそ注目したい。
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よくある質問
AK-69の新曲「LOYALTY」はどこで聴けますか?
2026年2月19日よりSpotify、Apple Music、Amazon Musicなど各種音楽配信サービスで聴くことができます。
AK-69とはどんなラッパーですか?
本名・武士尋己(たけし ひろき)、1978年8月28日生まれ、愛知県小牧市出身。2004年にKalassy Nikoff名義でソロデビューし、ラッパーとしてはAK-69名義で活動。2016年にDef Jam Recordings日本再始動後の第一号アーティストとして契約を果たしました。日本武道館ワンマン5回、プロ野球選手登場曲使用率No.1を3度獲得するなど、ヒップホップの枠を超えた支持を集めるアーティストです。自身が代表を務めるFlying B Entertainmentやファッションブランド「BAGARCH」の運営など、実業家としても活動しています。
AK-69「LOYALTY」はどんなタイミングでリリースされたのですか?
2026年1月14日にベストアルバム「BEST OF AK-69 ‘Yellow Gold’」をリリースした直後、2月19日に配信開始されました。2025年9月から2026年2月にかけて全国ツアー「ENLIGHTENMENT Ⅱ -Road to 30th year-」を開催中で、アーティスト活動30周年の節目に当たる新作です。2026年6月9日には日本武道館でのライブも予定されています。
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