『POP IT』は、挑発的なタイトルとは裏腹に緻密に構築されたヒップホップトラックだ。ダークな質感と計算されたフロウが交錯し、聴き手を独特の世界観へと誘う。
この新曲でまず耳を捉えるのは、重厚なキックとうねるようなベースラインが生み出すグルーヴだ。ビートは決して派手ではないが、低音域の存在感が圧倒的で、ヘッドホンで聴くとその迫力がより一層際立つ。上ネタにはシンプルなシンセフレーズが配置され、ミニマルな構成ながらも空間を効果的に埋めている。『POP IT』というトラック名が示唆するポップさとは対照的に、サウンド全体はダークでハードな印象を纏っており、このギャップが楽曲に独特の緊張感をもたらしている。
ラッパーとしての技術面では、声質の使い分けとフロウの緩急が光る。低く抑えた声で淡々と韻を踏むパートから、一転してアグレッシブに畳みかけるパートへと移行する展開は、リスナーを飽きさせない。ライミングのパターンも単調ではなく、ビートの裏拍を突くようなタイミングで言葉を置くことで、リズムに予測不可能な揺らぎを加えている。声のトーンには冷ややかさと自信が混在しており、どこか都会的なクールネスを感じさせる仕上がりだ。
リリックの世界観は断定的な描写を避けつつも、自己主張と挑発が交錯する印象を受ける。具体的な物語というよりは、断片的なフレーズやワードチョイスから浮かび上がるムードが、聴き手それぞれの解釈を誘う余白を残している。夜のドライブや一人で集中したい作業時間、あるいはジムでのトレーニング中など、孤独と向き合うシーンにこそフィットする一曲だろう。過度に感情を露わにしない抑制の効いた表現が、逆に強い説得力を持っている。