LEX『OCEAN』|レビュー&解説

    LEX『OCEAN』は、広大な海のイメージを彷彿とさせるアトモスフェリックなサウンドスケープの中で、LEXならではの浮遊感あるフロウが際立つ一曲である。ビートは深みのあるベースラインとエアリーなシンセが重なり合い、まるで波間を漂うような心地よさを生み出している。日本のヒップホップシーンにおいて独自のポジションを確立してきたこのラッパーが、また新たな音楽的領域へと踏み出しているように感じさせる仕上がりだ。

    LEXのラップは、タイトルが示す「OCEAN」というモチーフに呼応するかのように、流れるようなフロウで展開される。言葉の乗せ方には独特のリズム感があり、ビートとの一体感が心地よい。リリックは内省的なトーンを帯びているようにも聞こえ、ストリートで培われたリアルな感覚と、どこかメランコリックな情緒が交錯する。具体的な歌詞の解釈は聴く者それぞれに委ねられる部分もあるが、自己との対話や人生の浮き沈みといったテーマが根底にあるのかもしれない。

    サウンド全体の質感としては、ニューヨークを中心としたUSヒップホップのトレンドを意識しつつも、LEX自身のカラーがしっかりと刻まれている。HIPHOPCs編集部としては、この楽曲は夜のドライブや一人で物思いにふける時間にフィットする一曲だと捉えられる。波の音が聞こえてきそうな開放的なプロダクションは、都会の喧騒から離れたい瞬間に寄り添ってくれるだろう。LEXというアーティストの表現の幅広さを再確認できる『OCEAN』は、彼のディスコグラフィーの中でも印象的な位置を占める可能性を秘めた楽曲である。


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