日曜日, 11月 30, 2025

Awichが新作アルバム、Joey Bada$$を迎えたフォーカストラック「Fear Us」とその背景

ホーム » HIPHOP NEWS » Awichが新作アルバム、Joey Bada$$を迎えたフォーカストラック「Fear Us」とその背景

via @awich098 / @joeybadass INSTAGRAM

Wu-Tang Clanの頭脳であるRZAが全編をプロデュースした、日本のヒップホップ史においても異例のプロジェクトが誕生した。それがAwichの新作『Okinawan Wuman』である。そして本作の中核を担うのが、Joey Bada$$を迎えたフォーカストラック「Fear Us feat. Joey Bada$$」である。

この楽曲は、単なる海外アーティストとの共演ではない。沖縄という土地が抱える歴史、アジアの一員としての自覚、そしてヒップホップが本来持つ政治性とスピリチュアリティを融合した、強烈なメッセージソングである。

沖縄で始まった「修行」RZAとの3年間

本作の起点は、RZAが「日本でフィルムを撮りたい」と発言したことにある。当初は東京での撮影が想定されていたが、最終的に選ばれた舞台はAwichの故郷である沖縄であった。彼女は「案内役」として声をかけられ、一週間にわたりRZAとともに沖縄各地を巡ることになる。

二人は自然そのものを拝む聖地「御嶽(うたき)」を訪れ、米軍基地を前に日米関係の複雑さを共有し、空手道場や彼女の実家にまで足を運んだ。Awichの母の手料理を囲み、父と酒を酌み交わしながら、沖縄という土地が抱える歴史とリアリティをRZAに体感させたのである。

当初は「せっかくだから1曲くらい一緒に作ろう」という軽い発想だったが、それが「フルでアルバムをやろう」というRZAの一言によって方向性が変わった。2022年から始まった制作は、約3年をかけて形になった。Awichはこの期間を「修行」であったと語っている。

RZAは決して明確な指示を出すタイプではない。ビートが届かない日々、途絶える連絡、その沈黙の時間をAwichは試練として受け止め、何度も自ら足を運び、スタジオや道場の扉を叩き続けたという。その姿勢は、彼女が語るように“自らを鍛える修行僧”そのものであった。

RZAの別名「アボット」は、カンフー映画『The 36th Chamber of Shaolin』の僧院長に由来している。Awichは、36の房を巡る修行僧のように、一つの課題を乗り越えるたびに次の“チェンバー”に進む感覚で制作を進めたと述懐している。

「Fear Us」Joey Bada$$が語った“今この世界に必要な曲”

「Fear Us」は、もともとRZAとJoey Bada$$によるセッション音源の一つであった。Awichが「この曲が一番いい」と反応したことをきっかけに、RZAは「お前にやる。完成させろ」と託したという。Awichは自らのパートを加え、RZAと緻密なやり取りを重ね、曲の骨格を再構築していった。

完成版を聴いたJoey Bada$$は、「This song needs to exist in this world right now(今この世界に必要な曲だ)」と語った。世界的に不安定な時代の中で、戦争、平和、団結というテーマが強く響く。沖縄の視点とアメリカのヒップホップが持つ歴史的な視座が、異なる文化を超えて融合しているのだ。

Awichは「私たちの団結こそが、彼らが最も恐れているものだ」と語り、この曲を“ユニティを呼びかけるアンセム”と位置づけている。C.O.S.A.やRYKEY DADDY DIRTYが見せてきた“再生”の物語にも通じる、強い生命力を帯びたメッセージである。

「Wax On Wax Off」Lupe Fiascoが合流した必然

もう一つのキートラック「Wax On Wax Off」は、A$AP Fergとのセッションから生まれた。レコーディング中、Awichが口にした「Wax on, wax off」という一言が、そのままフックへと昇華された。映画『ベスト・キッド』の“ミスター・ミヤギ”の修行メンタリティを、自身の空手経験と重ね合わせて再構築した構造になっている。

そこへLupe Fiascoが合流したのは必然であった。Black Thoughtがこの曲を聴き、「このビートにはLupeが完璧にハマる」と連絡を取り、参加が決定したという。Lupeは空手や居合を嗜む武道家の父を持ち、自身も「サムライの精神」を体現するアーティストである。Awichは「Lupeは自分と同じエレメントを持っている」と語っている。

日本版では、R-指定、鎮座DOPENESS、NENE、C.O.S.A.が参加した「Wax On Wax Off -Japan Remix-」が収録されており、RZAのビート上で日本語ラップの多様性が一つに交わる貴重なトラックとなっている。

GOLDONRUSH PODCASTをここから視聴しよう

「盗用」ではなく「吸収」RZAが語るヒップホップ観

RZAは文化の“盗用(appropriation)”という言葉を否定し、「amalgamation(融合・吸収)」という表現を用いる。文化とは人々に愛されることで自然に広がり、各地の価値観や歴史を吸収しながら変化していくものであると彼は語る。ヒップホップはその最たる例である。

Awichもまた、アジア各国のトップラッパーを集めた「Asia State of Mind」で同様の哲学を実践してきた。文化は支配ではなく共有によって進化する──それがRZAとAwichの共通する信念である。

日本とアメリカの縮図としての沖縄

アメリカ文化に憧れながら育ったAwichにとって、沖縄は常に「日本とアメリカの縮図」であった。基地のフェンス越しに見えるアメリカ、ドルの香り、輸入菓子、ピザ、英語の響き──それらは幼少期の感覚として彼女の中に刻まれている。

しかし、実際にアメリカで生活し、差別や暴力、構造的問題を目の当たりにしたとき、彼女は「アメリカとは何か」という問いに直面することになる。パートナーの死を経て日本に戻った彼女は、「沖縄から来た自分が本当に世界と向き合うためには、日本で成功しなければならない」と覚悟を決めたという。

海外メディアからは「日本のヒップホップは世界でも最もリスペクトされている」と評価されており、Ebroなども「日本はヒップホップを最も真剣に理解している国の一つだ」と語っている。Awichはこの認識をさらに拡張し、ヒップホップの「第二の故郷」を日本に築くことを目指している。

『Okinawan Wuman』は日本語ラップの新たな基準となる

『Okinawan Wuman』は、ローカルな土地性とグローバルな政治性、圧倒的なリリックとサウンドデザイン、そしてサバイバルの物語を同時に鳴らす作品である。沖縄から世界を見据え、文化の交差点として日本のヒップホップを再定義した重要作である。

日本のヒップホップシーンにおいて、この作品は単なる“海外アーティストとの共演”ではない。周縁から中心へ、沈黙から発声へその変化を象徴する一枚として長く語り継がれるであろう。

著者・監修情報

執筆:ItoKotaro(日本語ラップ/USヒップホップ担当)

監修:HIPHOPCs Intelligence Unit ─ 海外ヒップホップメディアの動向、日本語ラップシーンの一次情報、公式インタビューを日英両言語で継続的にリサーチしているデータチームである。

専門領域:USヒップホップ、沖縄発ヒップホップ、日本語ラップ、カルチャーと政治/社会問題の交差領域、ストリーミング時代のアーティストビジネス

出典とリサーチ方針

本稿は、公式リリース情報、国内外の信頼性の高い音楽メディアの報道、ならびにGOLDNRUSHによる独自取材をもとに構成している。引用情報については、可能な限り一次情報(オリジナルインタビュー/公式チャンネル/公式SNS投稿)を確認し、文脈を損なわない形で要約している。

編集方針とスタンス

アーティスト本人および作品へのリスペクトを最優先としつつ、カルチャーの歴史的背景や政治性、社会的影響についても正面から向き合う。本記事における作品解釈や位置づけは、編集部および執筆者個人の見解であり、特定の団体・個人の公式見解を代弁するものではない。

事実関係については可能な限り正確を期しているが、リリース情報やクレジット、配信状況などは今後変更される場合がある。そのため、最新情報は各アーティストの公式サイトレーベル配信サービス等も合わせて確認。

著作権・転用禁止

本記事および掲載画像・テキスト・翻訳文のすべての著作権は、HIPHOPCsおよび原著作権者に帰属するものである。 無断での転載・引用・スクリーンショットによる再配布・AI学習データへの利用・SNS等での再加工・再利用を「正当な引用」の範囲を超えるものは認められない。

転載・引用・資料利用・取材をご希望の場合は、HIPHOPCs公式サイト内のお問い合わせフォームより事前にご連絡ください。

コメントを残す

Latest

ARTICLES