水曜日, 8月 20, 2025

JIDが放つカメレオンラップの極み:新アルバム『God Does Like Ugly』レビュー

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ラップしない豚は、ただの豚だ。

今回も世界が注目しているラッパーのひとり、JIDの話題を一つ。プラチナムセールスを記録し、グラミー賞にも複数回ノミネートされた実績を持つものの、フィーチャリングアーティストとして幾多ものラッパーの楽曲に登場していた、南部はアトランタ出身のこのラッパー。繊細なリリシズム、卓越したライミングスキルと、メインアーティストを凌駕してしまうレベルを持ちながら、近年は謙虚に脇役に徹していたイメージが強い。

うそじゃないもん!全部JIDなんだもん!


彼のすごいところは、自身の声やスタイルを保ちつつ、世代、地域差、ジャンル、ビート問わず馴染んで聴ける、カメレオンのような適応ラップ能力である。ほんとだもん!ほんとに全部JIDなんだもん!うそじゃないもん!、とメイちゃんばりに主張したい。

それを証明するかのように、2021年の『Options』では、Doja Catと共演し、彼の歌うようなフローがポップ・スターのウィットに富んだ歌声と曲に自然と溶け合った。ロックバンド、Imagine Dragonsとの『Enemy』では、彼の早口フローが彼らの2022年のビルボード・ヒットに貢献し、ジャンルを超えて唯一無二のラップと、彼自身の存在感を主張した。以前紹介した、2024年の『Fuel』では、大先輩Eminem(エミネム)との共演で、ヒップホップ界屈指の最高峰ラッパーと互角に渡り合う、という難題をクリアした。そして、同じくアトランタ出身のラッパー、Offsetと6月にリリースされた『Bodies』の強烈なリリシズムは、本年度のベストラップ・ヴァースと呼ぶにふさわしいものであった。

40秒での支度は無理だったがやっと出た新アルバム

だがだが。数々の客演後、40秒での支度は無理だったが、やっと彼がメインとして戻ってきてくれた。Dreamville RecordsとInterscope Recordsより4枚目のスタジオアルバム『God Does Like Ugly』をリリースしたこの御仁。長年のコラボレーターであるChristoがエグゼクティブプロデューサーを務めたこのアルバムはJIDの音楽への情熱が光る、多彩な楽曲が収録されている。

夢だけど、夢じゃなかった豪華な共演

客演も豪華だ。Westside Gunnは『YouUgly』で堂々としたボーカルを披露し、アルバムの幕開けを飾った。EARTHGANGやCiaraが参加した『Sk8』では、ATLの影響が色濃く表れている。このアルバムには、Clipseの『Community』も収録されているぞ。

その他のゲストアーティストには、Ty Dolla $ign、Vince Staples、6lack、Don Toliver、Jessie Reyez、Mereba、Baby Kia、そしてアトランタのラップ界のレジェンド、Pastor Troyなどが名を連ねている。このラインナップは、JIDの作品に深みと多様性をもたらしている。こんな豪華な客演…夢だけど、夢じゃなかった!

耳が、耳がぁぁぁ!となるJIDのラップスキル

ずっとリリースが噂されていたJIDの新アルバム。その高度なラップスキル、主張と技巧が詰まった本アルバムは「バルス」ばりの破壊力ではないものの、聴いたとたん、「耳が、耳がぁぁぁ!」と筆者の耳はやられてしまった。どんなビートにも自然に馴染む彼のラップ。これでもかと内韻や外韻を踏みまくるライミングを早口で披露したかと思えば、Bone Thugsのようなソウルフルなフローも披露している。技術的な完成度、あらゆるアーティストとのコラボ、プロダクションの幅広さ…つまり本アルバムは、JIDの「多面性」が詰まった1枚である。ただ、やはり。この多彩性とカメレオン性がゆえに、「アルバムの統一感と一貫性」に疑問を呈する声が上がっているも事実だ。

不完全を受け入れろ!「God Does Like Ugly」の意味

だが、恐らくこれもJIDの意図なのかもしれない。なぜならこのアルバムのタイトルには、達成不可能な完璧さという理想を追い求めるのではなく、人生に内在する不完全さ、葛藤、痛みと向き合い、受け入れる意志を示唆しているからだ。

気になる方は気になるであろう、アルバムタイトルだが、元々は口語表現 「God Doesn’t Like Ugly(神は醜いものは好まない)」から来ている。一般的には、神は悪や罪深い行為、特に他人を虐待したり否定的な態度を示したりすることを嫌うという意味で理解されているが、これは外見ではなく、行動や性格を指すという。反してJIDのアルバムタイトル『God Does Like Ugly(神は醜いものがお好き)』には神が人生の「醜い」側面…つまり美しいものや完璧なものだけでなく、苦悩、痛み、不完全さも受け入れ、包み込むという意味を包括している。神は困難や不快な部分も含め、人間の存在ありのままその現実を見つめ、理解し、それらすべてを通して人々を愛する、ということを象徴しているという。JIDの祖母はこの言葉を使用し、たとえ人が傷ついたり困難な場面に直面したりしても、状況に関わらず、神は人を愛し受け入れるという考えを示していたそうな。貧困、痛み、その他の苦難といった人生の困難な現実と、愛に満ちた神という概念を調和させるためのJIDの表現だといえるだろう。うーん、奥深い!

「ラップしない豚は、ただの豚だ」:唯一自分が自分でいられる手段

「ラップしない豚は、ただの豚だ」は文字通りポルコ・ロッソさんの有名な格言「飛ばない豚は、ただの豚だ」をパロッたものだが、力があるのに挑戦しない人や、口ばかりで行動が伴わない人に対して、一蹴するような力強い意味を持っている。そして唯一自分が自分でいられる手段(飛ぶこと・ラップすること)を示唆している。JIDがジブリアニメを知っているかは分からないが、彼が日本のアニメファンだというのは事実らしい。どうか、このままラップで表現し続けてほしいものだ。

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