なんとなんとTyler, The Creatorが電撃リリース!『DON’T TAP THE GLASS』は、これまでの彼の作品と比べて、あまりにもストレートで、あまりにも楽しい。それは意図的な“肩の力の抜けた作品”でありながら、彼の音楽的センスやヒップホップへのリスペクトが詰め込まれた一枚に感じます。
サプライズ・リリースに隠された真意
今回のアルバムは、発表からリリースまでが異例のスピードで進んだそう。それだけに、「本当にこれが完成品なのか?」と疑う声も少なくありませんでした。しかし、Tyler本人の言葉によれば、この作品は彼自身の今の心境をそのまま表現したものだといいます。
「俺は今、世界の頂点に立ってる」とコメント。
リピートしたくなる全10曲。テーマは“踊らせること”
本作は、ヒップホップ、ファンク、ソウル、ダンスなど、さまざまなジャンルの要素が絶妙に混ざり合った10曲で構成されています。トラック数は少なめですが、そのぶん密度は濃く、何度でも聴き返したくなる仕上がりです。
とくに印象的なのが、Tyler自身がすべてのプロデュースを手掛けている点。The NeptunesやN.E.R.D.の影響を感じさせるベースラインや、ブチ上げ系のシンセ、ハウスやGファンク風の展開など、音楽的な遊び心が随所に散りばめられています。
「Sucka Free」のボコーダーや、「Sugar On My Tongue」のシンセ暴走など、細かいギミックが曲に厚みを与えており、聴くたびに新たな発見が。
過去作品やレジェンドへのオマージュが満載🔥
Tylerは自身の過去作にも目配せしつつ、ヒップホップのルーツをしっかりと踏まえた構成にしています。
たとえば「I’ll Take Care Of You」では、『CHERRY BOMB』のドラムを再利用しつつ、Crime Mobの「Knuck If You Buck」のバースまで引用。さらに、Busta RhymesやToo $hort、Kelis、Black Eyed Peasへのリスペクトも散りばめられています。
このように、80年代〜2000年代のヒップホップ〜ダンスカルチャーへのオマージュが本作を“ただのノリ系アルバム”に終わらせない理由とのこと。
余裕と自信に満ちたラップとボーカル
ラップのスタイルは、これまでで最も“LA訛り”が濃く、それがまたこのアルバムのノスタルジーを際立たせています。たとえば、Madison McFerrinとの「Don’t You Worry Baby」ではあえて主役を譲る場面もある一方、全体としてはTylerのキャラクターが全開です。
「Ring Ring Ring」では柔らかいボーカルが浮遊感あるトラックにマッチし、「Tell Me What It Is」ではやや粗さのある仕上がりながらも、ラストを締めくくるにふさわしいエネルギーを感じさせてくれます。
コンセプト性より“体感”を優先した構成
これまでのTyler作品には明確なコンセプトが存在しましたよね、本作にはあえてそれがありません!!
その代わり、あくまで“ダンスさせる”という目的に徹底しています。ストーリー性を削ぎ落とした分、リスナーは音そのものに集中できる。それがこのアルバムの最大の魅力じゃないでしょうか。
Tylerは過去アップデート
『DON’T TAP THE GLASS』は、彼が過去に培ってきたサウンドやスタイルを今の時代にマッチさせる手腕を見せつけた作品です。
とくに『CHERRY BOMB』のざらついた質感と、『IGOR』以降のポップ・ソウル的アプローチの融合は圧巻。
たとえば「Stop Playing With Me」から「Mommanem」への流れは、彼のキャリアの中でも屈指の展開力と言えると思います。
軽やかさの中に実力
『DON’T TAP THE GLASS』は、深読みしすぎず、“音楽として楽しむ”ことに徹するべき作品です。
短い尺ながら、何度でも再生したくなる中毒性を持ち、ファンにとっても新規リスナーにとっても非常に入りやすい一枚となっています。
Tyler, The Creatorは、「肩の力を抜いていても天才は天才」ということを改めて証明してみせたのではないでしょうか。