耳の肥えたラップ好きな読者は既にチェック済みであろう4人組を紹介する。2022年にデビューした彼らは、自身のフリースタイル動画をSNSで発信し続け、今日までヒップホップファンを魅了し続けている。ヒップホップ界のMC四銃士こと、Coast Contra(コースト・コントラ)である。彼らのラップを聴いて、衝撃を受けたのは筆者だけではないだろう。Q-tip(Qティップ)の名曲『Breathe and Stop』のビートでのフリースタイルをネットのどこかで見つけて聴いてから、筆者は彼らの虜となった。定期的に彼らの動画を観て、ラップチャージ(充電)してしまうほどである。ある者は、同一人物とは思えないほどフローを途中でガラリと変え、ある者はドスの利いた声でスペイン語と英語を自在に操り、そしてある者は力強くリリカル砲を発し、またある者はウィットに富んだパンチラインとライミングを披露する。まるで蝶のように舞い、蜂のように刺す彼らのラップは、もっと聴きたいという思いに駆られるのだ。
メンバー紹介
ロサンゼルス出身の双子、Ras Austin(ラス・オースティン)とTaj Austin(タージ・オースティン)、コロンビア・カリ出身のRio Loz(リオ・ロズ)、そしてフィラデルフィア出身のEric Jamal(エリック・ジャマル)は、2016年に結集し活動を始めた。彼らはグループ名をCoast Contra(コースト・コントラ)に決める以前から、長年共に創作活動を続けてきた。そして2022年3月、ついに彼らは夢を叶えた。今彼らはデビューアルバムのタイトル『Apt.505』…窮屈なアパート505号室からはかけ離れた、程遠い場所で輝いている。
アパート505号室とサイファー・サンデーから
グループ内で唯一スペイン語と英語を操る二刀流のリオ・ロズが出会いについて述べている。「俺が双子(ラスとタージ)に出会ったのは高校、9年生くらいの時だった。自然な流れだったな。最初はただ踊ったりフリースタイルをしたりしていたけど、こいつらはもう自分で音楽をやってて、僕はただベビーベッドで遊んでただけだった。お互いに刺激し合うようになって、2015年にロサンゼルスに引っ越した。そこで良いブラザーのエリック・ジャマルを見つけた。それがCoastの絆になった。こいつ(エリック)と出会ってから、俺らは完全に繋がったんだ」4人はファーストアルバムのタイトル通り、アパート505号室に集まって住んでいたという。そう。彼らは文字通りずっと一緒だった。同じアパートに住み、『My 2 Cents』というLAのソウルフード・レストランで従業員として働き、一緒に曲を作った。彼らのピッタリと息の合ったコール・アンド・リスポンスや合いの手は、そこから生まれたのだろう。エリック・ジャマルは「俺らは一緒に働き、一緒に暮らしてた。24時間365日、一緒にいるだけで、本当の兄弟愛が生まれるんだ。一緒に暮らしてみないと、本当の意味での人の理解はできないと言われているだろ。だから、俺が『こいつらを知っている』って言ったら、それはマジで奴らのことを知っているっていう意味さ」と2021年のラジオ番組でのインタビューに応えている。彼らは「サイファー・サンデー」と題した毎週のライブシリーズを開催することでファンベースを築き上げた。このイベントは急速に成長し、毎週数人の観客からレストランの収容人数を満杯にしたという。これがきっかけでStonewall Black(ストーンウォール・ブラック)と知り合い、彼らはレーベル「エリア51ミュージック」と契約することになった。
音楽との出会い
エリックは言う。「俺は音楽をやりたいと思ったことは一度もなかった。両親は俺をヒップホップから遠ざけていた。家にはゴスペルがたくさん流れていたけど、兄貴が連れ出してくれた時は、Nelly(ネリー)やJay-Z(ジェイ・Z)、Nas(ナズ)やらのアーティストを紹介してくれたよ。それでだんだん好きになっていった。始めた頃はいつもフリースタイルでやっていたから、兄貴が『おい、曲を書いてみろ』と言ってきたんだ。俺は『別にやりたいことじゃない。俺は不動産業者になりたいんだ』と答えた。でも、テンプル大学に入学してから、曲作りを始める機会に恵まれた。その後、曲作りが自分の得意分野だと気づいたんだ。それで、曲作りで稼げるかもしれないって思った。それからロサンゼルスに来て、こいつらと出会い、そして今、目の前にはコースト・コントラがいる」対照的に、リオ・ロズはずっと音楽が好きでトランペットも吹いていたそうだ。タージとラスは、父親は西海岸ラッパーのRas Kass(ラス・キャス)、母親はR&BシンガーのTeedra Moses(ティードラ・モーセス)で、両親が音楽界に身を置いていたこともあり音楽に囲まれて育ち、人生を通して音楽に浸っていた。彼らにとっては、家業を継いだようなものだという。
『ネバー・フリースタイル』の影響
彼らはハリウッドボウルでDave Chappelle(デイブ・シャペル)の前座を務める機会を得た。なんとシャペル自身が彼らにラップをして欲しい、と名指ししたという。シャペルから「君たちのやっていることの、大ファンだよ。きっとこの文化に素晴らしいものを残してくれると思う。これからもずっと続けてほしい」と激励の言葉をもらった、とタージはビルボード誌のインタビューに答えていた。人気が高まるにつれ着実に努力を続けてきた彼らは、件のデビューアルバム『APT 505』リリース前の、2月に動画『Never Freestyle』を発表し、バイラルとなる。この動画はQuestlove(クエストラブ)、LL Cool J(LLクールJ)、Timbaland(ティンバランド)、Talib Kweli(タリブ・クウェリ)、Juelz Santana(ジュエルズ・サンタナ)、Swizz Beatz(スウィズ・ビーツ)、DJ Jazzy Jeff(DJジャジー・ジェフ)、Kelly Rowland(ケリー・ローランド)、The Alchemist(アルケミスト)、JIDといったアイコンたちの注目を集めた。その後、Jimmy Fallon(ジミー・ファロン)のNYのショーに出演し、同地での公演会場のチケットを売り切れにしたのも、彼らの実力があってのことだろう。
将来共演してみたいアーティストは
仲の良い4人組だが、将来はどうやらソロ活動も視野に入れているようだ。タージは、Black Thought(ブラック・ソート)、Mos Def(モス・デフ)、Andre3000(アンドレ3000)、Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマ―)と仕事をしてみたいそうだ。リオは「Rubén Blades(ルーベン・ブラデス)のジョイントもぜひ聴きたいな。彼はサルサ・アーティストで、すげぇクレイジー。ペンはクレイジーだし、ストーリーテリングもクレイジー。まさにレジェンドだ。ヒップホップ界なら、Blackstar(ブラックスター)、モス・デフ、Lauryn Hill(ローリン・ヒル)あたりがクレイジーだろうな。Busta Rhymes(バスタ・ライムス)、Ludacris(リュダクリス)もね」そしてラスはどうやらR&B寄りなのか、「俺らとしては、Imagine Dragons(イマジン・ドラゴンズ)とフィーチャリングでやってみたいな。彼らはクレイジーで、触れるもの全てが最高にクールだ。ソロで言うと、正直言ってR&Bやソウルの方がずっと好きなんだ。Erykah Badu(エリカ・バドゥ)と何かやりたい。SiRは本当にドープだと思う。 D’Angelo(ディアンジェロ)も勿論だ。Hiatus Kaiyote(ハイエイタス・カイヨーテ)、FlyLo(フライロー)…フライローと何かできたら、正直言って俺ら全員にとって最高だよ。ヒップホップに関しては、新しいアーティストたちと仕事ができたら最高だ。必ずしも俺のプロジェクトである必要はないけど、俺らが土に手を入れて、それから出てくる新しいアーティストたちとクールなフィーチャリングができたら、最高だ」そして、エリックは一番謙虚に答えている。「伝説のアーティストやGOAT(偉大なアーティスト)たちに関しては、正直に言うと『彼らと一緒に曲を作りたい』なんて夢中になることはないな。尊敬する人たちと話をしたいよ。ジェイ・Zとかのやっていることはもう知ってる。研究したから。だから彼と話をしたいだけなんだ。デイブ・シャペルにも話がしたかった。オフレコでいいから、ゲームについて教えて欲しい。アンドレ3000にも話がしたい。ゲームの内容、動き方、注意すべき点、アーマー(鎧)に加えるべき良い特性とか、秘訣を教えてほしい。ケンドリック、Cole(J.コール)。座って話したいアーティストはたくさんいるけど、彼らのフィーチャリングはきっとドープだよ」
これからとまとめ
今年の5月、彼らは世界デビューを果たす。UKとEUに『In Case You Forgot Tour』を開始するという。冒頭でも述べた通り、彼らの傑出した才能とリリシズムは、リスナーに忘れられない印象を残す。古き良き時代への懐かしさと、新しさへの愛着が融合した、進化したノスタルジア。それこそが、彼らが生みだす音楽の魅力なのかもしれない。彼らが日本のフェスでパフォーマンスする日もそう遠くなさそうだ。
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