不安。不安障害。現代の日本でも人口の5~6%の人が抱えており、その数はうつ病より多いという。Anxiety(アンザエティ…不安・不安障害)とは、ヒップホップ界のスターも我々と同じように抱えている、心の病である。みんな大好き、現在進行形で大快進撃中のDoechii(ドーチ)も例外では無いようだ。ラップ界のプリンセスは、4月18日(金)『Anxiety』オフィシャルミュージックビデオをドロップした。ドーチワールドが全開、且つメタファーとメッセージ性満載の秀逸なMVなので、是非HiphopCs読者も視聴して欲しい。
James Mackel(ジェームズ・マッケル)監督によるこのビデオは、不思議の国のアリスのような独自の世界観が堪能できる。恐らくドーチの心の中を表している「豪華な邸宅」で、彼女は炎上する台所、威嚇するドーベルマン、崩れ落ちるシャンデリア、突然の侵入者などなど、不穏でカオスな光景に満ちた、けれども色鮮やかで豪華な舞台を駆け抜ける。それぞれの光景は、この曲が描き出す精神的な不安「Anxiety」を反映しているという。彼女が通りに逃げ出すと、「まるで象が私の上に立ってるみたいな、この胸の締め付け。そして私は流れに身を任せたの…」とポエティックに呟きと共に通り過ぎ去る象を皮切りに、100人以上のダンサーが彼女を取り囲み、彼女の圧倒的な不安をダンスで象徴しつつフィナーレに向かう。
同曲は、Top Dawg EntertainmentとCapitol Recordsから先月リリースされて以来、既にバイラルセンセーションを巻き起こしている。現在世界中で2億7,200万回以上(米国では8,500万回)のストリーミング再生を記録し、SSNの再生回数は230億回を超えているそう。前作『DENIAL IS A RIVER』の成功に続き『Anxiety』はドーチにとってBillboard Hot100で初のトップ10入りを果たし、トップ40ラジオとアーバンラジオの両方でトップ20入りを果たすなど、ヒットを続けている。Gotye(ゴティエ)の2011年のヒット曲『Somebody That I Used to Know』をサンプリングしているが、恐らく契約上の理由や都合か何があったのだろう。Doechiiが今年3月にようやく正式にリリースするまでストリーミングサービスには登場しなかったそうだ。楽曲自体は2019年のYouTube動画で公開済みである。
『Daniel Is A River』のMVもアメリカのテレビドラマ風のセットから、最後の怒りを表現するかのような爆破でドーチの心情を上手く表現していたが、今回もかなりメッセージ性が高く、見応え抜群である。この複雑なラッパーの心境を、よく映像化したものだ。巷のミュージックビデオにありがちな、セクシーな格好の男女やジャグジー、高そうな車、シャンパンは一切登場しない。いや、終盤ドーチがセクシー(というか健康的)に腰を振っているものの、全体的に色気とは無縁な、芸術的作品に仕上がっている。今年はドーチ尽くしで、嬉しい限り。皆さんも素晴らしいMVをご堪能あれ!