これは、友人A子さんが話してくれたブロン錠のことです。
壮絶な体験をしている彼女と同じような境遇にいる方に届けばいいなと思い執筆させて頂きます
彼女は3年間、市販の咳止め薬「ブロン錠」を飲み続けていました。
最終的には、1日に1瓶。
ブロン錠には「ジヒドロコデイン」が含まれていて、これはコデイン系の成分です。
つまりれっきとしたオピオイド(麻薬性鎮痛薬の一種)なんです。
市販薬だから安全、というわけじゃなくて、
作用も依存性も、“静かに進むオピオイド依存”そのものらしいのです。
そんな彼女が、今少しずつ元の自分を取り戻しつつあります。
そのきっかけになったのが、「1ヶ月にたった1錠だけ減らすこと」と「記録すること」でした。
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「私は、音がクリアに聴こえる気がしてた。でも、感情が死んでいった」
「最初は、眠れない日が続いてて。
夜にブロンを飲むと、音楽がもっと深く響くような気がしたの」
そうA子さんは話してくれました。
音楽が好きだった彼女にとって、“感覚が拡張された気がする”ブロン錠は、魅力的すぎる存在でした。
けれど、それは感情を麻痺させるための麻酔でもありました。
気づけば、作りたい音楽も、書きたい詩も浮かばなくなっていたそうです。
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フェンタニルで捕まったKodak Blackは、私と同じ構造の中にいた
「ある日、Kodak Blackがフェンタニルで逮捕されたってニュースを見たの。
最初は『アメリカのラッパーってやっぱヤバいな』って思った。
でも……私もブロンがないと生きられない日々だった。
種類が違うだけで、オピオイド依存の構造はまったく同じなんだよね。」
そう言って、A子さんは俯きました。
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ラッパーたちとオピオイド:悲しみと現実の接点
彼女の言う通り、オピオイド系の薬に沈んだラッパーは枚挙にいとまがありません。
• Juice WRLD:オキシコドンとコデインの過剰摂取で21歳で死去
• Lil Peep:フェンタニルとザナックスの併用で急死
• Mac Miller:フェンタニル・アルコール・コカインの混合でオーバードーズ
• Young ThugやFuture:しばしばコデイン入りのシロップ(リーン)をリリックに登場させ、影響を受けた若者が多数
中でもA子さんが特にショックを受けたのは、Juice WRLDの死でした。
「彼の音楽、めちゃくちゃ好きだった。あんな優しい声の人が、あんなふうに死んでしまうなんて……」と、彼女は言っていました。
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「1月に1錠だけ減らそう」それだけが、希望だった
ある日、A子さんは自分の状態をノートに書き出しました。
飲んだ日、減らせた日、離脱症状が出た日――全部記録したそうです。
そして、自分に約束したのです。
「1ヶ月に1錠だけでいいから、減らそう」
急にやめると絶対に失敗する。
だから、たった1錠。
たった1ヶ月で1錠。
それなら、きっと私にもできるはず。
その日から、A子さんの反撃が始まりました。
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「ブロンは“感じないための薬”だった。私は、もう感じながら生きていきたい」
「ブロンを飲んでた頃って、何も感じなかった。
悲しいことがあっても、泣けない。
楽しいことがあっても、笑えない。」
でも、今は違う。
たとえしんどくても、A子さんは“感じられる日々”に少しずつ戻ってきています。
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「3年で1瓶になったんだから、3年かけて戻す。それでいいと思ってる」
A子さんは、笑いながらそう言いました。
焦らなくていい。周りと比べなくていい。1月に1錠。
それだけで、生きるペースを取り戻せる。と
「依存」も「回復」も、静かに進んでいくということですね
薬物に依存してしまうことは、決して珍しいことではありません。
でも、そこから静かに、ゆっくりと戻る道は、確かに存在します。
「1ヶ月に1錠減らす」
「記録をつける」
このふたつだけでも、人生は少しずつ変わっていくのです。
A子さんのように、音楽を愛しながら、傷つきながら、でも前に進もうとする誰かのために――この話を届けたいと思います。