水曜日, 4月 2, 2025
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テキサスが放つ新鋭モンスターMC!今大注目のBigXthaPlugについて

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BigXthaPlug。この名前を初見で誰が読めるだろうか?昨今のラッパー名は難解なものも散見されるが、英語に堪能な人やネイティブな英語話者すらも、この名前を読むのに一瞬躊躇するだろう。今年26歳になるテキサスはダラス出身の、BigXthaPlug(ビッグエクサプラグ)は今南部ヒップホップシーンを率いる最も熱いMCのひとりである。彼のバーを聴いた時、見た目もさながらNortorious B.I.G.(ノートリアスB.I.G.)を彷彿とさせるディープなバリトンボイスと、ベテラン感漂う安定感抜群のフローに、筆者のヒップホップオタクレーダーが反応した。恐らくイニシャルXの由来である、本名Xavier Landum(ザヴィア・ランダム)ことビッグエクサプラグ(以下BigX…ビッグエックスと呼ぶ)は、ヒップホップに生々しいリアルと紛れもないエネルギーをもたらした。なぜヒップホップのリスナー達は彼にこんなにも魅了されるのだろうか?見た目のインパクトは、言うまでもない。だが「Big」を売りにしているアーティストは過去も今も一定数存在する。筆者はドリル世代では無いが、彼の楽曲は何故かすんなりと耳に入るのだ。今回は年齢問わず彼の楽曲が親しまれている理由を、探ろうと思う。

フットボール選手と刑務所時代

BigXは、テキサスのレジェンドUGK、同州の隣、ルイジアナ出身のLil Wayne(リル・ウェイン)、Drake(ドレイク)、Isley Brothers(アイズレー・ブラザーズ)などさまざまなアーティストを好んで聴いていた両親のおかげで、音楽に囲まれた家庭で育った。テキサスはセントフェリスにあるフェリス高校の才能ある高校生フットボーラーとして、彼はスカウトの注目を集めた。自身のスキルによりミネソタ州の短大に入学したが、大学からはマリファナを吸ったために退学処分を受けてしまった。不運に見舞われた彼は、明確な方向性も仕事もないままオースティンに引っ越した。幼い息子を養うためにストリートに出たものの行き詰まり、窃盗と強盗で投獄され、初めて彼は音楽を真剣に受け止めるようになったいう。当然のことながら、息子の1歳の誕生日を逃したことが原因で苛立ちと怒りが頂点に達した彼は爆発し、独房に送られた。周囲に四方の壁しかなく考える時間はたっぷりある中で、BigXは作曲スキルを磨き、音楽のキャリアだけに集中することを決意した。「俺が書き始めた本当の理由は、正気を保つためだった。そこは正気を持っている奴が居るべき場所じゃなかった。俺はただ、自分の精神を安定させるために、何かをする必要があった。それが俺(の正気を)しっかり保って、地に足をつけさせてくれた方法の一つだったんだ。(あの経験のおかげで)マジで語彙が増えたように感じたね」彼は続ける。「俺は刑務所に何度も行ったことがあるが、それは特別な時だった。俺が刑務所にいる間にたくさんのことが起こり、世界は俺なしでも動き続けていることを思い知らされたよ。母親が病気になり、祖母が病気になり、息子の誕生日を逃したこともあった。だが世界は自分がいなくても動き続ける。特に息子のこととなると、俺は毎日そこにいたいと思うんだ」その経験以来、彼は前進し続けている。

音楽キャリアのスタート

投獄後、BigXは2019年の『Taliban Freestyle』などの初期の曲をYouTubeとSoundCloudでリリースした。当時、ストリーミングで稼ぐお金はなかったらしく、息子を養うために必死だったという。2020年12月にリリースされた『Bacc From the Dead』はBigXの最初の公式プロジェクトであり、彼の決意の証であった。このミックステープは彼のストーリーテリングスキルと、本物らしく強烈なトラックを届ける能力を披露した。ダラスのミュージックビデオ監督HalfPintFilmz(ハーフパイントフィルムズ)の知名度と彼の助けにより、『Big Stepper』などのBigXの曲はレコード会社の注目を集めた。メジャーと契約する代わりに彼は2021年9月にディストリビューターのUnited Masters(ユナイテッドマスター)と提携した。彼にとってこの提携は、音楽業界の細かい点を学び、アーティストを暗闇に置いたまま私腹を肥やそうとするレーベルに飲み込まれないようにするチャンスでもあった。

ブレーク後

BigXの判断力は、United Mastersが達成した何百万回ものストリームまで実を結んだ。2022年11月、26歳の彼は『Texas』をリリース。この曲は瞬く間にヒットとなり、RIAAからゴールド認定を受けた。この曲は彼の故郷へのラブレターであると同時に、南部のアーティストであることへの誇りの表明でもある。そのキャッチーなフックと迫力あるカントリー調のビートはファンに人気を博し、南部ラップ界の著名な声としての彼の地位を確固たるものにした。ちなみに本人はComplexのインタビューで「実は、最初はその曲が好きじゃなかったんだよな。ビートも好きじゃなかった。ただ、チームが”これは何かきっかけになるかもしれない”って感じで、まあいいかと思っただけなんだ。俺は彼らを信じ、それをやり遂げて、今ここにいる」その後この曲を収録した『AMAR』はビルボードのハートキーパーズアルバムチャートで初登場4位となり、Apple Musicのトップ30アルバムにランクインした。

Chopped n Screwedの伝統と独自のサウンド

テキサスのヒップホップと言えば、大きな特色の1つがChopped n Screwed(チョップド・アンド・スクリュード)である。チョップド・アンド・スクリュードは、1980年代から90年代にかけて、故Robert Davis Jr.(ロバート・デイビス・ジュニア)こと通称「DJスクリュー」というヒューストンのミックステープアーティストが生み出したサウンドである。音楽全体をスローダウンし、特定のビートや言葉、フレーズを繰り返したDJスクリューのスタイルが「チョップド・アンド・スクリュード」として知られるようになり、ヒューストンの他のアーティストもそのスタイルを始め広まったという。BigXのスタイルは、Mike Jones(マイク・ジョーンズ)やZ-Roなど、2000年代中盤のヒューストンのラッパーたちの甘ったるいチョップド・アンド・スクリュードの流れを彷彿とさせる。州によっては出身都市毎にライバル関係が生じることがあったりもするが、昔は同じテキサスでもダラスとヒューストンのラッパー間には緊張関係があり、ヒューストンの才能あるラッパーは全国的に有名になり、一方ダラスのラッパーは見過ごされがちだったそうだ。だがBigXは、州全体でラップシーンが統一されることを信じているため、その物語を過去のものにすることを使命としている。上記の親の影響もあり、幼少期にさまざまなジャンルの音楽に触れたことで、彼の南部のラップの伝統と現代の影響を融合させたユニークなサウンドが生まれた。彼の楽曲を聴けば、誰もが懐かしくも新鮮に感じるのだ。「Yeah、(俺の楽曲は)何か違うもんだし、みんな新しいものを聞きたがっている。今はみんなドリルラッパーになりたがっているよな。みんな殺人のあれやこれや、宝石や鎖について話したがっている。俺はただ自分の州と、自分の州出身の偉人たちのことだけを話しただけなのに、みんなすげぇいい反応をしてくれた。それは単に違うからだと思う。みんな時々何か違うものを聞きたがっているんだよ。俺はそれを切り替えてやっただけだ」

まとめ

昨年のビルボード誌の「100 Hottest Rappers 2024」の21位にランクインしたBigX。その他の音楽誌でも似たように「注目のNew Rapper」として幾つか選出されている。人はなぜこんなにも彼に魅了されるのか。BigXの社内プロデューサー、Tony Coles(トニー・コールズ)氏は彼のカリスマ性について、こう述べている。「彼にはMartin Luther King Jr.(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア)のような要素があり、まるで説教者のような雰囲気で、彼の声は非常に力強く、その背後には素晴らしいプロダクションがあるんです」そして、BigX自身も語っている。「この10年、Mumble Rap(マンブルラップ)が多かった気がする。みんな、(歌詞に内容が無く)何の話もしてなかった。俺は何かについて話している。音楽を愛する年配の人たちの多くは、それで育った…つまり、本質的な内容だよ。ここにいる若者(BigX自身を指す)は古臭く聴こえるが、こいつはYoung-Oldな(若くて古い)ビートに乗っている。俺は文字通り、みんなが気に入ってくれるようにすべてをミックスしたんだよ」

なるほど、そうなのか。と腑に落ちた。筆者はマンブルラップも嫌いでは無いしそれなりに楽しんで聴いてはいるが、やはり内容のあるストーリーテリングのある歌詞の方が好みである。最近は簡単にネットで歌詞が手に入り、翻訳機能も進んでいるので、ビート重視のリスナーが多いと言われる日本もリリックスやライミング重視で聴いている人が多くなったように思う。皆が彼に魅了されるのは、この新進気鋭のラッパーが、リスナーを選ばないリリックとビートを操って幅広くアピールする術を判別し、駆使していたからか、と理解した。それだけではない。将来有望なフットボール選手からの挫折から、本格的なラップ界のセンセーションへと至った彼の道のりは、粘り強さ、才能、そしてリリカルな語り部としての力強さの証である。彼は誇りを持って南部を代表し、音楽で自身の人生の苦難と勝利を映し出しているのだ。

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