「フリー・サグ」── この2年半、アトランタのストリートで叫ばれ続けたフレーズがついに現実となった。
YSL(ヤング・スライム・ライフ)の重鎮にして、アンダーグラウンドシーンの帝王、ヤング・サグの声が再びA-Townに響き渡っている。
ヤング・サグが「キングスパイダー」と呼ばれる理由は、彼の所属するYSLがクモを象徴として用いており、彼自身がそのリーダーとしてアトランタのヒップホップシーンで王者的な地位を築いているからである。
ビッグ・ホーミーのリル・ベイビーがドロップした最新アルバム『WHAM』。そのトラックリストを見て、ヘッズたちが目を疑ったのは「Dum, Dumb & Dumber」だ。クレジットには間違いなく「feat. Young Thug & Future」の文字。サウス随一のヒットメイカー、Wheezyがクッキングしたこのビートの上で、サグは衝撃の告白を残した。
「キング・スパイダーの帰還だ。檻の中にいた自分が信じらんねえ。でも中でも俺のやり方は変えなかった」── その声には、かつての彼の姿が健在だ。トラップの申し子と呼ばれた男の帰還は、業界の活性化と言っていい。
この爆弾投下は、YSLのRICO(組織犯罪)ケースで司法取引が成立した直後の出来事だった。昨年11月、サグは自身のXで「Whamよ、このラットどもにワンショット浴びせてやろうぜ」と投稿。ストリートを知る者なら、この「ラット(裏切り者)」が何を指しているか、すぐに察したはずだ。
長年の相棒、リル・ベイビーの反応も素早かった。彼のIGストーリーには、2人のクラシックとなった「We Should」がBGMで流れる。「戻ってきたな、ブラザー。ファミリーの元に無事帰れて良かったぜ。これからは金の山を積み上げろよ、ジャック! #whatwhamsaysgoes」── そのキャプションからは、純粋な喜びが伝わってくる。
けど、この祝福ムードの裏には、複雑な空気も漂う。「親友が苦しむ姿は、マジでメンタルをやられる」とベイビーは某メディアに告白している。「『これが俺だった可能性もある』って考えると、混乱するよ。人生観が180度変わった。この件に関わってるのは、ただのラッパー仲間じゃないんだ。俺らは一緒に切磋琢磨してきた本当のファミリーなんだから」
しかも、この事件はクルーの絆も引き裂いた。ガンナ(元YSLメンバー)は一足先に司法取引に応じ、業界から「スニッチ(密告者)」のレッテルを貼られている。リル・ベイビーを含む多くのOGたちからの冷ややかな視線は、まだ解けていない。
サグの新曲は、単なるカムバック以上の意味を持つ。2年半の沈黙を破っての一撃は、まさにストリートからの声明文だ。彼が失ったもの、守り抜いたもの── その全てが16小節の中に込められている。
この激震は、アトランタのシーンに何をもたらすのか。YSLを巡る問題は、まだ完結していない。キング・スパイダーの巣は、再び張り巡らされ始めたばかりのようにだ。Via