―何度も、何度も、何度も録り直し…―
ファット・ジョーは、自身の音楽の最大のファンであると自負している。

それはアーティストとして当然の姿勢だろう。しかし、そんな彼でも、自分のヒット曲がどのように生まれたのかを振り返ると、疑問に思う瞬間があるという。特に、2012年のカニエ・ウェストとのコラボ曲「Pride N Joy」の制作過程について、最近GQ誌の「Iconic Tracks」シリーズで語った内容が話題だ。この楽曲の制作中、ジョーは、カニエが彼のラップを完璧に仕上げるために異常なほどの録り直しを要求したことを回想している。カニエの完璧主義や献身的な姿勢、さらにはその独特な作業スタイルを考えれば、これは驚くことではないだろう。
300回の録り直し…スタジオでの苦闘を語る
「『Pride N Joy』は大ヒット曲だった」とファット・ジョーは語る。
「『Another Round』の直後に来た曲で、リコ・ラヴがペンを振るい、ビンクがビートを手掛けていた。そしてカニエがこの曲を耳にして、『俺も手を加えたい。一緒にやろう』と言ってきたんだ。当時のカニエは何をやっても成功するような時期だった。…でも、あいつは俺のヴァースを同じ内容で何百回も録り直しさせたんだ。300回はやったと思うよ。」
さらに、ジョーは当時のスタジオの雰囲気についても明かしている。
「俺の仲間たちはもう限界だった。『おい、いい加減にしろ!ふざけんな』みたいな感じで、カニエを本気で怒りそうだった。でもカニエは言うんだよ、“cul-der-sac(袋小路だな)” って。それだけ言って出て行く。そしてまた戻ってきて、“cul-der-sac”。何度も同じことの繰り返しだった。」
その過酷なセッションを振り返りながらも、ジョーは最終的な完成品に満足していると述べている。
「仕上がった作品が大好きだ。自分のヴァースの出来栄えもすごく気に入っている。カニエは厳しいけど、彼と一緒に仕事ができたのは光栄だった。俺のキャリア後半の中で、彼は間違いなく一番好きなラッパーなんだ。今でも俺は、自分の音楽を比較するときは必ずカニエの作品と比べている。それほど尊敬してる。」
「All The Way Up」とグラミー賞への不満
一方で、ファット・ジョーは自身の代表曲の一つ「All The Way Up」についても最近振り返り、2017年のグラミー賞で同曲がチャンス・ザ・ラッパーの「No Problem」に敗れたことに対して不満を漏らした。この件により、彼の「誇り」は時にネガティブな感情を伴うこともあるが、同時にその情熱や自信、そして作品に対する満足感が、今回のカニエ・ウェストとのスタジオセッションを愛情深く振り返る理由でもあるのだろう。Via