ケンドリック・ラマーが2024年にリリースしたアルバム『GNX』は、ロサンゼルスの次世代ラッパーたちを支える作品であると同時に、ヒップホップ界の伝説的存在である2Pac(トゥパック・シャクール)への敬意が込められた作品でもある。コンプトンで育ち、2Pacの「California Love」のMV撮影現場を目撃した経験を持つケンドリックにとって、2Pacはただの憧れではなく、自身の音楽的指針を決定づけた存在である。
ケンドリックが2Pacの影響を明確に受けた象徴的な出来事が、2010年9月13日に起きた。この日は2Pacの命日からちょうど14年後であり、ケンドリックにとって特別な意味を持つ日となった。
“霊的ビジョン”として現れた2Pac
ケンドリックは、2010年9月13日の深夜、スタジオ帰りに母親のソファで眠りに落ちた。そのとき、夢の中で2Pacが彼に語りかけてきたという。
「2Pacが『音楽を絶やすな』と言う姿を夢で見た。目の前に彼がいるような感覚だった」と彼は後に『GQ』のインタビューで語っている。この出来事はケンドリックの音楽観に大きな変化をもたらした。それまでヒップホップの定番であった「金、女、派手な生活」を描くことに限界を感じ、もっと社会的に意義のあるメッセージを届けるべきだと考えるようになった。
この出来事の直前、母親から「お前の誕生日は2Pacとたった1日違いだ」と告げられたことも、ケンドリックにとっては大きな驚きであった。自分と2Pacに繋がりがあるのではないかという思いが、この「霊的ビジョン」をさらに特別なものにしたのである。
2Pacへのオマージュを捧げた作品群
ケンドリックの2015年のアルバム『To Pimp a Butterfly』には、2Pacの影響が至るところに見られる。同アルバムは、2Pacに捧げる詩を中心に構成され、ラストでは2人の対話を模した演出が用いられている。タイトルは当初『Tu Pimp a Caterpillar(TuPAC)』とする予定であったが、最終的には「人生の明るさを示す」という意図から現在のタイトルに改められた。
また、ケンドリックの楽曲には2Pacのテーマを反映したものが多い。「Keisha’s Song」では女性の苦悩を描き、「i」では自己肯定感を歌い、「Mother I Sober」では母親との関係を深く掘り下げている。これらは「Brenda’s Got a Baby」や「Dear Mama」といった2Pacの楽曲との共通点を感じさせる。
さらに、ケンドリックは2Pacの遺産を守る役割を担っている。ドレイクがオークションで2Pacの王冠リングを購入したことを巡り、「俺に返せば、お前を少しは尊敬してやる」と歌詞を通じて挑発したことでも知られている。ケンドリックにとって2Pacは単なるアイコンではなく、文化と魂そのものである。
新作『GNX』における2Pacとの“再会”
ケンドリックの最新アルバム『GNX』に収録された「Reincarnated」は、2Pacへの敬意を明確に感じさせる楽曲である。この曲では2Pacのディープカット「Made N-ggaz」をサンプリングし、ケンドリックが過去世回帰を体験したという衝撃的なエピソードから始まる。
「過去世では1940年代のブルースギタリストだった」という告白から、ケンドリックは現世に戻り、神との対話を描いていく。この描写は2Pacが生前に持っていた信仰心や矛盾を彷彿とさせ、ロサンゼルスに平和をもたらしたいという願望と復讐心との葛藤が描かれる。2Pacの名前は直接登場しないものの、その存在感は楽曲全体に漂っている。
「Reincarnated」はまた、ケンドリックが文化の本質的な部分を理解し、守っていることを証明する楽曲でもある。AIを用いて2Pacの声を再現したドレイクの行為とは対照的に、ケンドリックは正当な手続きでサンプリングの許可を得ている点からも、文化へのリスペクトの深さがうかがえる。
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ケンドリックと2Pac、音楽を通じた“魂の共鳴”
ケンドリック・ラマーの音楽において、2Pacの影響は計り知れない。『GNX』は2Pacのスピリットを新しい形で再構築し、ヒップホップの遺産を次世代に繋ぐ試みである。このアルバムを通じて、ケンドリックは2Pacの精神を再び蘇らせ、そのメッセージを未来へと伝え続ける。Via