ラップ界でのビーフ(抗争)は長年にわたり、暴力や時に命を奪う悲劇へと発展してきた。しかし、法廷にまで持ち込まれることは稀であった。だが、今回のドレイクとユニバーサルミュージックグループ(UMG)をめぐる法廷闘争は、その常識を覆し、ラップ史上初のケースとして注目されている。
ケンドリック・ラマーのヒット曲『Not Like Us』は、ドレイクを痛烈に批判する内容で音楽業界を揺るがせた。曲中でケンドリックは、ドレイクが未成年者との不適切な関係を持っていたとされる疑惑や、地域の音楽シーンを「植民地化」しながらキャリアを築いてきたと非難した。このディストラックはビルボードHot 100で1位を獲得し、ストリーミングやセールスの記録を次々に塗り替え、2023年の夏を象徴する世界的ヒットとなった。
この成功の影にはUMGの影響力があったとされる一方で、ドレイクはこれに反発。「The Heart Part 6」や奇抜な新プロジェクト「100 GIGS」を発表するなど反撃を試みたが、彼の主張は十分に響かず、最終的には法的手段に訴えることとなった。
ドレイクの申立書:何が争点となっているのか?
今週、ドレイクはUMGに対して2つの「予備申立書」を提出した。これらは正式な訴訟ではなく、将来の訴訟に備えた証拠収集を目的としている。これには、UMGとその関連企業であるインタースコープ、Spotify、さらにiHeartMediaが関与している。ドレイクの主張の要点は次の通りである。
1. ストリーミング数の操作疑惑
ドレイクは、UMGが『Not Like Us』のストリーミング数を操作し、人気を不自然に高めたと主張している。ニューヨーク州で提出された最初の申立書では、UMGが「ボット」を使用してSpotifyやYouTubeで視聴回数を人工的に増加させたとされる。
証拠として、ある告発者がアカデミックスのライブ配信に登場し、「インタースコープ関係者から30万ドルの支払いを受け、3,000万回分のSpotifyストリーミング数を偽装した」と語ったことが挙げられている。一方でSpotify側は、ストリーミングデータに不正の痕跡はないと主張している。
2. Spotifyとの優遇契約
ドレイクは、UMGがSpotifyに通常のライセンス料を30%引き下げる契約を提案し、その代わりに『Not Like Us』を他のアーティストの楽曲よりも優先的に推薦するよう促したと述べている。Spotifyが提供する「ディスカバリーモード」を通じて合法的に実施された可能性も指摘されているが、具体的な詳細は申立書に記載されていない。
3. ラジオ放送でのペイオラ疑惑
UMGがラジオ局に対し、違法なペイオラ(賄賂)を通じて『Not Like Us』を頻繁に放送させたとする主張も含まれている。UMGが第三者を通じて支払いを行ったとされるが、具体的な局名や金額は明かされていない。
4. Siriの操作疑惑
Apple Musicを通じて、Siriがドレイクのアルバム『Certified Lover Boy』を再生するよう指示された際に、『Not Like Us』が代わりに再生されるよう設定されていたとする疑惑も挙げられている。ただし、これは曲の歌詞やメタデータが原因である可能性が高い。
5. ソーシャルメディアでの影響力操作
UMGがインフルエンサーに報酬を支払い、『Not Like Us』を広めるためのプロモーションを依頼していたとする主張もある。YouTubeやX(旧Twitter)の人気アカウントが対象となり、UMGは曲の著作権制限を解除してさらに拡散しやすくしたとされている。
6. 名誉毀損の訴え
ドレイクは、ケンドリック・ラマーの歌詞が彼を「ペドフィリア(小児性愛者)」として描写し、名誉を毀損したと主張している。UMGはこの楽曲のリリース前に歌詞を編集または公開を差し止める権限があったにもかかわらず、それを行わなかったとされる。
UMGはこれに対し、「我々のプロモーションは最も倫理的で透明性がある」と主張し、ドレイクの申立書を全面的に否定している。
ドレイクの目的とUMGとの関係
今回の申立書の目的について、専門家の間ではいくつかの見方がある。一部では、ドレイクがUMGやケンドリック・ラマーに謝罪を要求するための戦略だとする意見もある。また、2024年2月に予定されているスーパーボウルのハーフタイムショーで、ケンドリックが『Not Like Us』を披露するのを阻止しようとしているとの推測もある。
さらに、ドレイクのUMGとの関係が悪化していることも注目されている。2022年に彼が結んだ4億ドル規模の契約は業界最大級だったが、その後の関係は険悪なものとなっている。
今回の件が音楽業界に与える影響
ドレイクの法廷闘争は、ラップ界におけるビーフの新たな形を示しているだけでなく、音楽業界の不透明な部分を明らかにする可能性がある。今回の事件を通じて、アーティストがどのようにして自身の名誉や権利を守るかが議論されるだろう。
一方で、この騒動がケンドリック・ラマーの注目度をさらに高め、新アルバム『GNX』や『Not Like Us』のストリーミング数を押し上げる結果となっているのも皮肉と言える。Via