『The Ballad of Rooster Jenkins』は、物語性を感じさせるタイトルとは裏腹に、骨太なヒップホップサウンドが際立つ新曲だ。ラッパーとしての確かな表現力と、聴き手を引き込むビート構成が印象に残る一曲となっている。
冒頭から響く重厚なキックは、この楽曲の土台をしっかりと支えている。ベースラインは低音域を丁寧に這うように進行し、リスナーの体幹に直接訴えかけるようなグルーヴを生み出している。上ネタには有機的な質感を持つ音色が配置されており、全体としてアナログ的な温もりとデジタルな硬質さが同居する独特のビート感を演出している。The Ballad of Rooster Jenkinsというタイトルが示唆する叙事詩的な世界観を、音像だけで十分に構築できている点が興味深い。
ボーカル面では、落ち着いた声質がトラック全体に安定感をもたらしている。フロウは決して派手ではないものの、言葉の配置が計算されており、ビートの隙間を縫うように展開されるライミングが心地よい。緩急のつけ方も巧みで、静と動を行き来する構成が飽きさせない。ラッパーとしての技巧を誇示するのではなく、楽曲の世界観に奉仕するスタイルを選択している印象を受ける。そのため、リリックの内容が自然と耳に入ってくる作りになっている。
歌詞の世界は断定できないものの、人物の半生や経験を振り返るような語り口を彷彿とさせる。Rooster Jenkinsという架空とも実在ともつかない人物の物語が、比喩や情景描写を通じて少しずつ浮かび上がってくる構成だ。ヒップホップにおけるストーリーテリングの系譜を意識しつつ、過度に説明的にならないバランス感覚が光る。聴き手それぞれの解釈の余地を残している点が、この新曲の奥行きを深めている。
夜のドライブや、ひとりで思索にふける時間帯にこそ映える一曲だろう。派手さで勝負するバンガータイプではなく、じっくりと向き合うことで味わいが増していくタイプの楽曲だ。また、作業用BGMとして流しても邪魔にならず、それでいて存在感を失わない絶妙なバランスを保っている。編集部としては、この楽曲がヒップホップにおける”語り”の新たな可能性を示唆していると感じている。タイトルに込められた物語性と音楽性が高次元で結びついた、注目すべき作品だ。
※本記事はSpotifyで公開されている楽曲情報をもとに、HIPHOPCs編集部が独自の視点でレビューしたものです。楽曲の解釈は筆者の印象に基づいており、アーティストの公式見解ではありません。
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