via @Infinite Coles IG
ヒップホップ界もインクルーシブの波が押し寄せているようだ。また才能あふれる新たな面白い逸材が、出現した。
今の時代、星一徹のような昭和の頑固おやじはもう少なくなってはいるが、どうやら時代の変化や状況に向き合えないOGもいるらしい。Wu-Tang Clan(ウータンクラン)のレジェンドの一人で、7 月にはニューソロアルバム『Supreme Clientele 2』を Nas(ナズ)のレーベルからリリースした、Ghostface Killah(ゴーストフェイス・キラー)。彼にそっくりの、クイア(LGBTQのQ)の息子が、ゴーストとの「こじらせ親子関係」を歌にしたと、話題になっている。
ゴーストフェイス・キラーの息子、Infinite Coles(インフィニット・コールズ)は、2つのニューシングル『Sweetface Killah』と『Dad and I』をリリースした。「みんなが私をありのままに見てくれるといいなと思ってるの」と、インフィニットはVIBE誌の独占インタビューで語った。「このアルバムで、本格的に飛躍するつもりよ。今が私の時だと感じている。何か素晴らしいものが私のところにやってきているのよ。特に私のコミュニティでは、他のアーティストとは一線を画していると思ってる。なぜなら、誰も話したことのないようなことを歌っているからよ。みんなはただヒット曲を作りたいだけで、心の奥底で本当に起こっていることを語ろうとはしない。もし誰も語ってくれないなら、私が語るしかないと思っているの」
父親とは10年以上話をしていないというインフィニット。後述するが、『Sweetface Killah』ではポップ調の軽快なビートとキャッチ―で力強いフックに合わせ、自在のフローと父親譲りの独自なライミング力を発揮している。対して『Dad and I』ではR&Bシンガーレベルの甘く切ない声で、父とのこじらせた親子関係を歌っている。同曲の歌詞で彼はこう訴えている。
「 Dad and I don’t see eye to eye/ I love you but I think that you be carrying/ You tell me to man up yeah, When I put on makeup yeah/ Nobody’s perfect no/ Can’t you see that I’m worth it/ Can you love me now?(「お父さんと私は意見が合わないの/ お父さんを愛しているけど、あなたは(不満を)匂わせてると思う/ お父さんは私に男らしくしろと言う、そう、私が化粧をしている時/ 完璧な人なんていないわ/ 私にはそれだけの価値があるってわからないの?/ お父さん、今私を愛してくれる?)」
「SweetFace Killah(スイートフェイス・キラー)」は、父親の名前を引っかけた、LGBTQ嫌悪の蔑称として彼に投げつけられたあだ名だったという。「ある時、みんなダイレクトメッセージでいろんなあだ名で呼んできて、『SweetFace Killah』もその一つだったの」と彼は振り返る。「最初は落ち込んだけど、でも、待って、みんなそれを受け入れてくれたんだって。だから今はそれが私のアルバムタイトルなのよ」と、彼は逆境を乗り越えチャンスに変えてしまった。「ヘイターたちが、私が必要だと思わなかった別人格を作り出してくれたみたいな感じ」と彼は付け加えた。
反してゴーストフェイス・キラーは自身のアルターエゴ(別人格)を「アイアンマン」や「トニー・スターク」と呼んでいるように(彼はマーベルの映画が有名になるずっと前、デビューアルバム『Ironman』時代から自身をそう呼んでいる)自身の強さや男らしさを強調し体現してきた。インフィニットの『Sweetface Killah』の歌詞には辛口でこう表現されている。
「How you in a Mack truck, but forget you a father/ Is it me? Am I not your cup of tea?/ Are my pants not low, like your self-esteem?/ Do I need to f__ a b__, just so you could see?(マックトラックに乗っている(大型トラックに中にいる……巨大で圧倒的な力に囲まれているという比喩表現で、ここではウータンクランという組織を意味している)のに父親だってことを忘れているなんて/私のこと?私はあんたの好みじゃないって?/私のズボンはあんたの自尊心みたいに低くないって?/あんたに見せるために、ビッチとヤる必要があるっての?」
ちょっと話が逸れるが、近年アメリカではビジネスでも「Sei(She/Her)」や(He/Him)、もしくはよりニュートラルな(They/Them)など、自分の呼んでもらいたいジェンダー代名詞をメールや手紙の名前の横に記載するのが浸透しているのだが、インフィニットはどこを検索しても自身の代名詞を指定しておらず、また本記事を参考にしたサイトでも「He/Him」と紹介していたので、本記事でもそのように表記している。
さて。両曲を視聴したが、どちらもテイストが異なっていて聴き入ってしまう。『Dad and I』のスキルフルでソウルフルな声は当たり前に素敵だし、『Sweetface Killah』はノリが良く、彼の生き生きとした性格を表しているようだ。ラップのフローも女性ラッパーのような力強さを見せたかと思えば、甘い声を活かして歌うようにスピットしたりと、自在に操っている。歌ってラップするDrake(ドレイク)やCee’lo Green(シーロ・グリーン)のような有名なアーティストは一定数業界にいるが、彼はそのグループとも一線を画している。なにせゴーストの息子なのだ。その上、ただの親の七光りなネポベイビーではなく、才能と個性が光っている。なかなかのツワモノだ。好き嫌いが分かれそうだが、久しぶりに筆者の鬼太郎妖怪アンテナ……もどき妖怪ラッパーレーダーが発動した。近い将来、父親との確執が解消されることを祈ろう。彼のデビューアルバム『SweetFace Killah』は12月にリリース予定だ。