犬好きに悪い人はいない、というのは筆者の持論だが、「Dogs are man’s best friend」(犬は人間の最良の友である)という慣用句もあるほど、人類と犬の関係は深い。皆さんもご存知の通り英語での「dog」は、文字通り犬を意味することもあれば、スラングで卑劣な、醜い、価値のない人を表す否定的な意味として使用されたり、はたまた「bro」や「dude」のように友好的な呼び方として使われることもあるのだ。@rapperswithpuppiesというインスタグラムアカウントでは、様々なラッパーと彼らの犬が登場し、フォロワーをほっこりさせている。今回は、我らが愛するヒップホップアーティストと彼らの犬についての関係をまとめてみた。
犬が名前についているラッパー陣
まず手始めに、犬が名前についているラッパー陣を紹介しよう。言わずもがな、ヒップホップ史上最も有名な犬の名前は、Snoop Doggy Dogg(スヌープ・ドギー・ドッグ)、あるいは略してSnoop Dogg(スヌープ・ドッグ)だろう。彼のダックスフントのような容姿にもぴったりの名前だが、『ピーナッツ』のキャラクター、スヌーピーにちなんで幼い頃母親がつけたニックネームから来ているのは有名な話だ。
次に忘れてはならないのが、ラップフックの巨匠であり、メロディック・ラップ・スタイルの創始者でもあった故Nate Dogg(ネイト・ドッグ)だ。彼はもう一人の伝説的なドッグであり、従兄弟のスヌープとWarren G(ウォーレン・G)と共にトリオ「213」のメンバーとしてシーンに登場した。彼の名前の「ドッグ」という部分は血縁者から来ているようだが、彼の哀愁ある歌声は今日もファンの心を魅了している。
ふたりドッグと来たら次に紹介したいのが、Bow Wow(バウワウ)だ。「Bow Wow」自体は犬の鳴き声を模倣した言葉だが、1993年、当時6歳でKid Gangsta(キッド・ギャングスタ)という名前でパフォーマンスをしていた彼。『The Chronic』ツアー中のスヌープ・ドッグとコロンバス公演で出会い、ステージに招かれ、以降Lil Bow Wow(リル・バウワウ)と名乗り始めた。「彼のエネルギー、ルックス、子供の頃の自分を思い出させたよ」とレジェンドラッパーは語っている。「彼は小さな俺だった。リル・ドッグという名前にする代わりに、リル・バウワウと名付けたんだ」。リル・バウワウはスヌープ・ドギー・ドッグのツアーにオープニングアクトとして参加し、この時点でこの若者は目新しい存在から、子役として大成功するチャンスを手にした。大人になった彼は、今でもバウワウ名義で楽曲をリリースしている。
Pit Bull(ピットブル)にも言及しなければならない。彼は2000年代初頭のキャリア開始以来、この芸名で活動してきた。2012年に出版された伝記『Pitbull: Mr Worldwide』によると、彼はこの犬種を自分の象徴として選んだ理由をこう説明している。「ピットブルの粘り強さと根性に感銘を受けた」と。「(ピットブルは)ロックするために噛みつくんだぜ」と、本には彼の言葉が引用されている。「あの犬はバカだから負けるわけにはいかない。それに、デイド郡(フロリダ州)では禁止されている。ピットブルは俺の全てだ。ずっと戦い続けてきたんだ」
ラッパーと愛犬たち
犬好きのアーティストは結構存在する。Megan Thee Stallion(メーガン・ザ・スタリオン)は、愛犬家の代表として挙げられる。このスーパースターのインスタで度々登場するワンコたち。自身のインスタページと50万人を超えるフォロワーを持つフレンチブルドックの4oe(フォー)を筆頭に、同じくフレブルのDos(ドス)とOneita(オネイタ)、5ive(ファイブ)という名前のピットブル、X(テンと発音)という名前のCane Corso(イタリアン・コルソ)、そしてSix(シックス)という名前のマールを飼っているという。フォーのインスタにはママメーガンも度々登場している。
先述の大御所スヌープ氏。Juelz(ジュールズ)という長年連れ添ったフレンチブルドッグを今年6月に失い、悲しみに暮れていた。だがその後、同じく愛犬家のWiz Khalifa(ウィズ・カリファ)から子犬(フレンチブルドッグ)を授かり、家族に迎えている。7月にOGは、Baby boy Broadus(ベイビーボーイ・ブローダス…ブローダスはスヌープの本名の姓)の最初の写真をシェアし、この子犬のためにインスタグラムアカウントも作成した。このアカウントはすでに13万人以上のフォロワーを獲得しているのだ。@babyboybroadusのインスタグラムへの最初の投稿には「俺の新しい人生をフォローして。ベイビーボーイ・ブローダス。子犬の頃」と書かれており、スヌープと新しい子犬の写真が数枚掲載されてる。
さあさあ。そのWiz Khalifa(ウィズ・カリファ)。彼も、Shadow (シャドウ)という名前のドーベルマンとVincent(ヴィンセント)という名前のブルドッグを含む複数の犬を飼っている。なんとヴィンセント君は、Rolling Stone誌のカバーも飾っているのだ。彼は自身のTikTokやInstagramで、犬たちが遊んだり、トレーニングしたり、触れ合ったりする動画を頻繁に投稿しているのだ。
業界でも超有名なのが、OutkastのBig Boi(ビッグ・ボーイ)だ。彼が実弟と行っている、ブリーディングと保護活動は「Pitfall Kennels」と呼ばれている。ジョージア州アトランタにある25エーカーの施設で、二人はアメリカン・ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、イングリッシュ・ブルドッグを育てているという。「彼らは史上最高に忠実で、家族思いの犬たちだ」とラッパーは言う。「俺たちは、彼らにかけられた偏見を払拭するためにここにいるんだ。…結局のところ、俺はただ木々や森に囲まれた中で、自分の動物たちとゆったりとくつろぎ、ただ静かに過ごしたいだけなんだよ」
最後はやはり故DMXだろう。彼ほど生前誤解されていた人物はいないのではないだろうか。DMXは、生涯を通じて犬と深い絆で結ばれており、犬は誠実で誠実な仲間であり、人間との経験とは正反対の強い忠誠心と友情を与えてくれる存在だと考えていた。彼の犬への愛は、若い頃に野良犬を保護したことから始まり、彼の楽曲や公的なイメージにも多分に表われていた。残念なことに、2001年と2008年に動物虐待容疑で告発されるなど、法的問題によって傷つけられたこともあった。彼はピットブルを飼っていたことで知られ、アルバムカバーに犬を起用し、背中には亡くなった愛犬Boomer(ブーマー)のタトゥーを入れていた。DMX の「人間よりも犬を信頼している」という発言は、2003 年のアルバム『Grand Champ』のトラック『Dog Intro』からの引用だが、犬好きは納得できる言葉ではないだろうか。この曲でDMXは、犬、特にピットブルとの深い絆を表現していた。彼は、ピットブルが人間には欠けている忠誠心と信頼を与えてくれると感じていた。歌詞は、彼が人間に裏切られ、失望させられた経験を反映しており、犬たちにより真の友情を見出すようになった経緯が描かれている。
ヒップホップ界での犬のイメージ今と昔
犬たちは、Too Short(トゥー・ショート)の1990年のアルバム『Short Dog’s in the House』のアニメーションアートワークから、スヌープの初期カバーに登場した雑種犬たち、そして先述DMXの、唸り声と吠え声をあげるアドリブまで、何十年にもわたりヒップホップにおいて重要な役割を果たしてきた。しかし、ごく一部の例外を除けば、このジャンルにおける犬の象徴性は近年変化してきているようだ。ラッパーたちが自分たちのタフさの代名詞として、鋭い歯を持つ筋肉質で大きな犬を使っていた時代は、より愛くるしいものに取って代わられたのだ。何よりもスヌープと彼の愛犬ベイビーボーイ・ブローダスがそれを示している。
「今はラッパーの多様性が増しているし、それに伴って犬の多様性も増している」と、Oliver(オリバー)という名のラブラドールを飼っているポートランド出身のラッパー、Aminé(アミーネ)はEntertainment誌に語っている。「(オリバーと俺は)初日から意気投合したんだ。彼はとても個性的で、いつも行儀が悪いけど、俺は全く気にしない。好奇心旺盛で、面白くて、まるで家族犬のように遊び好き。ラッパー=ブルドッグじゃなくて、まさにそういう犬を求めていたんだ」。アミーネは、昔のヒップホップ界で見かけた歯ぎしりする犬はイメージ重視というより実用性を重視していたと考えているが、「おそらく番犬として飼われていたのだろう」と付け加える。
2019年『Puppy Dog Bounce In A Box』という曲で話題となり、その成功を受けてコンセプトアルバム『The Dog Album』を制作したラッパーのRxCKSTxR(ロックスター)は、ヒップホップにおける犬の役割と象徴性の変化は、ジャンルのスタイルとファッションの変化を反映している、というアミーネの理論に賛同している。「オーバーサイズのTシャツ、ジャケット、ジーンズから、タンクトップ、ブラウス、派手な色、サンダル、スキニージーンズ、それにマッチしたハンドバッグとベルトへと変化した」と彼は言う。「同じことが俺らの犬にも当てはまるよ。ラッパーの犬の多くは小さくて持ち運びやすく、まるでアクセサリーのみたいに旅行に持っていけるんだ」もしかしたら、最近のヒップホップ界で見られる、小さくてかわいいワンコたちは、よりインクルーシブな文化の産物なのかもしれない。
結びに
日本のヒップホップ界でも、ラッパーのSocks氏やDJ Ryow氏、般若氏、R指定氏など、犬好きを公言し、素晴らしい楽曲を発表しているアーティストが存在する。日本での犬の飼育頭数は、高齢化や飼育環境の変化が原因で、2013年をピークに年々減少しているようだが「A dog is a part of your life, but you are everything to a dog’s life(犬はあなたの人生の一部だが、犬の人生にとってあなたは全てなのだ)」という格言が示す通り、犬は私たち人間の人生の一時しか一緒にいないが、犬にとっては私たちが世界のすべてなのだ。毛深い仲間たちと過ごす貴重な時間を、感謝しながら過ごそう。