皆さんはもう既に、Lil Wayne(リル・ウェイン)の『Tha Carter VI』を聴いただろうか?ヒップホップファンが首を長くして待っていたこの作品。彼のキャリアで一番!と大評価している者もいれば、いやいや彼史上最低の出来ですよ、と辛辣に評するファンもおり、かなり賛否両論である。その上、地元でのスーパーボウル出演の座を、かつて共演したKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)に奪われてから、ずっと不貞腐れていた(ように見えた)リル・ウェイン。だがついに!今月リリースした新アルバムが、ケンドリックを抜き、ビルボードのヒップホップ・アルバム・チャートで「トップラップ・アルバム」の座に君臨した。
ケンドリックのアルバム『GNX』は、それまで7週間連続でラップ・アルバム部門の首位を獲得していたが、ウェインの初週売上は、カリフォルニアはコンプトンのスーパースターを追い抜くのに十分なものだったようだ。ブラボー!
だがしかし、だ。『Tha Carter VI』は発売初週に10万8000ユニット相当を売り上げた。その前のソロアルバム『Funeral』は初登場1位を獲得し、初週の売り上げは13万9000ユニット相当だったという。が。2018年に『Tha Carter V』が初週48万ユニットを売り上げたのと比べると、大きな落ち込みなのである。残念ながらこのアルバムは、『Tha Carter』シリーズ全体、そしてリル・ウェイン自身の約30年に及ぶキャリア全体を通して、初週の売り上げが最も低いアルバムとなってしまった。
もう1つ話題となっていることがある。なんと名プロデューサーAlchemist(アルケミスト)曰く、彼はリル・ウェインの同アルバムのプロデューサー候補に挙がっていたそうだが、「考えすぎてしまった」ため、ビートを時間通りに送ることができなかったそうだ。今月上旬に開催されたBETアワードにて大御所プロデューサーは「Mack Maine(マック・メイン…ウェインが所属するYoung Money Entertainmentの社長)とは親友で、定期的に連絡を取り合っているんだ。このアルバムのために何か送るように言われたんだけど、考えすぎてしまって、タイミングを逃してしまったのかも」と彼は説明した。「ウェインはMCとしてはクエーサー(非常に離れた距離に存在し極めて明るく輝いている天体)みたいな存在だから、どうなるか分からない。多分考えすぎだったんだ。いいか、俺らみんなそうなる時がある。考えすぎたけど、次は考えないようにするよ」
実はリル・ウェインとアルケミストが初めてタッグを組んだのは1999年、ウェインがラッパーのCormega(コーメガ)と共に『Who Can I Trust』に参加した時である。本作『Tha Carter VI』にアルケミストの参加はなかったものの、Big Sean(ビッグ・ショーン)、Machine Gun Kelly(マシン・ガン・ケリー)や2チェインズ、オペラ歌手のAndrea Bocelli(アンドレア・ボチェッリ)、カントリー歌手のJelly Roll(ジェリー・ロール)、Fugees(フージーズ)のWyclef Jean(ワイクリフ・ジョン)など、数々の有名アーティストとのコラボレーションが実現している。
残念ながら本アルバム、批評家からは概ね否定的な評価が下されている。だが、筆者のお気に入りトラック『Don’t Cry(feat. XXXTENTACION)』や今個人的に大注目している、ウェインの縄張りルイジアナ州のお隣、テキサスの新星BigXthaPlug(ビッグエクサプラグ)を客演に迎えた『Hip-Hop』など、なかなか聴きごたえある濃い内容となっている。Hot Boysメンバーだった17歳のころからリル・ウェインを追っているので、業界内トップクラスの大物になった今、42歳だからこその熟した魅力に溢れている作品が多いように思う。何はともあれ、是非、視聴してみてほしい。