ヒップホップとは何か?いきなり哲学的な質問から入るが、この問いに貴方は何と答えるだろうか。胸を躍らせるようなビートの音楽のことだろうか?ハンドマイクで矢継ぎ早にラップすることだろうか?重力を無視した、くるくる回るダンスステップのことだろうか?はたまた、ストリートの壁をキャンバスに変えてしまうような巨大な文字やイラストのことであろうか?
恐らくある人はヒップホップを「文化」と答え、またある人は「人生そのもの」と反応し、またある者は「音楽ジャンル」と言い切るだろう。ヒップホップは、その広大な領域における立場によって意味が大きく異なる。だが答えは、これらすべて、である。今回は根本的な根本、私たちの愛する「ヒップホップ」の定義について一緒におさらいしようではないか。
絶対外せない4つの柱(要素)
以前の、ラップについての記事で軽くまとめたので歴史に関してここでは割愛するが、1970年代末、ニューヨークのブロンクスから生まれたこの「ヒップホップ」には絶対に外せない4つの重要な要素、つまり「4大柱」がある。この4要素・4大柱は、どのヒップホップ関連の書籍や文献を引用しても必ず載っていて、絶対に外すことは出来ない。もちろん、おさらいするまでも無い方はスルーして欲しい。その4つの要素とは、
- DJ (ターンテーブリズム…聴覚)
- MC (ラップ…口頭)
- ブレイクダンス (B-boying/B-girling…身体)
- グラフィティアート(視覚)
である。これら要素は、ヒップホップの歴史における「瞬間」を象徴する興奮と革新の集合的な精神から、生まれた。かのKRS One(KRSワン)はこれに「知識(精神)」を加えた5本柱と呼んでいるし、また昨今のヒップホップ研究者の中には、この4大要素以外に「演劇と文学」― ヒップホップの要素とテーマをドラマ、詩、物語等。そして「自己認識 」― ヒップホップ的な生き方を形作り、刺激する道徳的、社会的、そして精神的な原則の2要素をプラスで組み込んでいる人もいる。いずれにせよ、上記の4つは絶対、なのだ。
DJing
DJとは、ターンテーブルとミキサーを用いて音を操り、音楽を作り出す芸術である。DJはヒップホップ文化の初期の原動力でもあった。彼らはまず、曲のインストゥルメンタルセクション(ブレイク)を延長することで観客を盛り上げた。DJ Kool Herc(DJクール・ハーク)は、ファンクやディスコのブレイクビーツを分離し、連続して再生することでより長いダンスリズムを作り出し、この要素を黎明期に先導した人物として広く知られている。この手法により、ダンサーはより長い時間、自分のスキルを披露することができた。さらに、DJクール・ハークは2台のターンテーブルを使用するという革新的なアイデアで、異なるトラックをシームレスにミックスし、ヒップホップの集まりの特徴となるノンストップのパーティームードを作り出したのだ。DJクール・ハーク、Grandmaster Flash(グランドマスター・フラッシュ)、Afrika Bambaataa(アフリカ・バンバータ)といったDJ界の重要人物たちは、ヒップホップのサウンドとダイナミクスの形成に重要な役割を果たした。スクラッチやビートジャグリングといった、これらの先駆者たちによって開発されたテクニックは、今日のヒップホップ音楽制作の基礎となっている。
MCing
MC(ラップ)は、ヒップホップにおけるボーカル表現の一つである。MCは、DJのビートに合わせて言葉で韻を踏んだり、チャントでリズムに乗ったりする。当初は、DJの司会者として活動し、音楽に合わせて独創的でウィットに富んだ韻を踏むことで、観客とパーティーを盛り上げていた。彼らは歌詞の内容だけでなく、カリスマ性と存在感でステージを支配するパフォーマンスも披露した。Run-D.M.C.(ラン・D.M.C.)やRakim(ラキム)といった先駆的なMCたちは、ライミングを必要不可欠かつ尊敬される芸術形式へと高めた。ラン・D.M.C.はMCの役割を統合し、単なる観客とのエンゲージメントから、表現力豊かな物語芸術形式へと変貌させた。彼らは複雑な歌詞構造と、都会の生活を題材にしたテーマ性を導入し、幅広い聴衆の共感を呼んだ。一方、ラキムはヒップホップに豊かで複雑な歌詞をもたらしたことで高く評価されている。内部的なライミングスキームと深遠な哲学の活用で知られる彼は、このジャンルにおける可能性の新たな基準を打ち立てた。これら初期のMCたちが生み出したボーカルの韻踏みとリズム感は、今日でもヒップホップサウンドに不可欠な要素となっている。MCは、単に歌詞を朗読するだけでなく、観客と交流し、即興でパフォーマンスし、DJのビートにマッチする独自の流れを作り出すことも含まれるのだ。こうした進化により、MCは本来のルーツを超えて、政治的な発言や社会的な表現へと広がり、世界中の様々なコミュニティで影響力のある発言者となっているのである。
B-Boying/Breaking
B-BOYING(ビーボーイング・ブレイキング・ブレイクダンス)は、ダイナミックなストリートダンスのスタイルだ。DJ活動と並行して発展し、曲のインストゥルメンタルブレイクに合わせて複雑なダンスバトルを繰り広げた(だから「ブレイクダンス」という)。リズム、運動能力、そして創造性を融合させたブレイクダンスは、複雑なフットワーク、スピン、そして重力を無視した動きが特徴である。Rock Steady Crew(ロック・ステディ・クルー)のようなグループやCrazy Legs(クレイジー・レッグス)のようなダンサーたちは、このダンス分野の美学と基準を定義する上で重要な役割を果たした。彼らのパフォーマンスは、身体能力だけでなく、スタイル、フォーム、そして大胆でユニークな動きを繰り出すことの重要性も強調していた。ブレイクダンスに内在する創造性は、ダンサーが動きを通して自身のアイデンティティを表現することを可能にし、技術力だけでなく創造性とセンスも評価される、エネルギッシュなバトルへと発展していったのだ。今日に至るまで、ブレイキングはヒップホップ文化を特徴づける要素の1つで、様々なモダンダンスに影響を与え続けている。多くの若者にとって、ブレイクダンスはヒップホップ文化への入り口となり、コミュニティを育み、公共空間における自己表現を促進しているのだ。現在では世界中で大会が開催され、BボーイとBガールの才能と革新性が披露され、ヒップホップダンスの魅力が広がっている。
Grafiti Arts
グラフィティアートは、大胆な色彩、精巧なデザイン、そして都市空間の変容的な活用を特徴としている。Taki183(タキ183)やJean-Michel Basquiat(ジャン・ミシェル・バスキア)といったアーティストは、グラフィティを本来の舞台から主流のアート界へと押し上げた。反抗や破壊というレンズを通して見られることも多いグラフィティだが、都市環境の社会政治的文脈で注目を集めた。伝統的に周縁化されてきた人々の声を反映し、イメージやタグを通して多くのことを語りかけているのだ。
芸術としてのグラフィティと、破壊行為としてのグラフィティの間の緊張関係は依然として重要な議論の的となっているが、ヒップホップにおけるその文化的価値は否定できない。グラフィティは、個人が公共空間を取り戻すことを可能にし、都市景観を変容させ、そこに個人的な物語を吹き込む芸術的な風景を提供しているのだ。
まとめ
ヒップホップは、間違いなく上記4つの芸術的要素を包含している。しかし同時に、それらを融合し超越することで、人生と世界を見つめ、祝福し、経験し、理解し、対峙し、そして批評する手段となっているのだ。そう。まさしくヒップホップとは「生き方」であり、「文化」なのだ。ヒップホップの4つの要素を理解し、評価することは、ヒップホップが提供する芸術性とエンターテインメント性だけでなく、意義深い文化運動としての永続的な役割を認識するための基盤となる。それぞれの要素は、創造性と抵抗の独自の側面を体現し、過去の伝統と現代の表現を融合させ、未来の物語を形作っている。
では再び問う。貴方にとって、ヒップホップとは何だろうか?シンプルにまとめよう。ヒップホップとは、私たちの表現とアイデンティティに関する文化運動であり、また、私たちが愛してやまないもの、すべてを意味しているのだ。